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認知症で食べない・食欲がないとき|原因と対処法、貼り薬に関する研究

2026.09.11 更新

「最近、食事を残すようになった」「食卓についても、なかなか食べ始めない」「体重が減ってきた」。認知症のご家族を介護されている方から、こうしたご相談をよくいただきます。

食べてもらえないと、心配と同時に、歯がゆさを感じられることもあると思います。最初にお伝えしたいのは、食べないのは、ご本人のわがままや、ご家族の介助不足とは限らない、ということです。認知症の方の食事量が減る背景には複数の原因があり、その多くは確認と対処ができます。

この記事では、考えられる原因とご家庭でできる工夫、アルツハイマー型認知症の治療薬であるリバスチグミン貼付剤(貼り薬)と食事量に関する研究、早めに受診していただきたいサインを、脳神経内科・内科の立場から整理します。

この記事の結論

  • 認知症の方が食べなくなる原因は一つではありません。口や飲み込み、便秘、体調、薬、食事環境を順に確認することが大切です。
  • 食べないのは、ご本人のわがままや、ご家族の介助不足とは限りません。
  • アルツハイマー型認知症の治療薬であるリバスチグミン貼付剤については、食事摂取量の改善を示唆した2019年の小規模研究(FOOD-ARRIVE研究)があります。
  • ただし、比較群のない観察研究であり、食欲の改善を保証するものではありません。食欲増進薬として承認された薬でもありません。
  • 原因の評価と、食事・栄養の支援を含めて、主治医と一緒に治療を考えていきます。

認知症の方が食べなくなる理由は一つではありません

「食べない=食欲がない」と決めつけないことが出発点です。いくつかの要因が重なっていることも少なくありません。

認知症そのものに関係する要因
  • 食欲そのものの低下:アルツハイマー型認知症では、病気の経過の中で食欲や体重が減ることがあります。
  • 食べ物の認識や食事動作の難しさ:食べ物だと分からない、箸やスプーンの使い方が分からない、食べ始める動作が起こりにくい。手が止まっているのは「食べたくない」のではなく、「どうすればよいか分からない」場合があります(日本作業療法士協会)。
  • 気分の落ち込み・意欲の低下:うつ状態や意欲低下(アパシー)は、食事量に直接影響します。
体の要因(見落とされやすいもの)
  • 口腔・義歯の問題:口内炎、歯や歯ぐきの痛み、合わない義歯、口の乾燥。痛みを言葉で伝えられないことがあります(厚生労働省 e-ヘルスネット)。
  • 嚥下障害(飲み込みの問題):むせる、食事に時間がかかる、痰が増える、微熱を繰り返す。
  • 便秘:おなかが張ると食欲は落ちます。高齢の方では非常によくある原因です。
  • 感染症や体調不良:肺炎、尿路感染、脱水、心不全の悪化、甲状腺の病気などは、最初のサインが「食べない」であることがあります。
  • 薬の影響:厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」は、食欲低下を起こしうる薬として、痛み止め、便秘薬、抗不安薬、抗精神病薬、一部の抗うつ薬などとともに、認知症の薬(コリンエステラーゼ阻害薬)も挙げています。薬が増えた・変わった時期と食欲が落ちた時期が重なっていないかは、大切な手がかりです。
  • 食事環境:テレビの音や人の出入り、慣れない食器、急かされる雰囲気、模様のある皿で食べ物が見分けにくい、といったことも影響します。

ご家庭で確認できることと、すぐに試せる工夫

受診前に整理しておきたいこと
  • いつ頃から、どのくらい減ったか(例:主食を半分残す)
  • 体重の変化(分かる範囲で)
  • 水分がとれているか、尿の回数や量
  • むせ、咳、痰、食事にかかる時間
  • 口の痛み、義歯の不具合、便通
  • 最近増えた薬・変わった薬(市販薬やサプリメントも)
  • 眠気、日中のぼんやり、気分の落ち込み

メモにして、お薬手帳と一緒にお持ちいただくと、診察がスムーズになります。

食事の工夫
  • 落ち着いた環境:テレビを消し、食卓の上を片付け、ゆったり座れる姿勢に。
  • 一品ずつ、少なめに:品数が多いと混乱しやすいため、少なめに盛っておかわりできる形に。
  • 好みを生かす:昔から好きだったもの、慣れた味、食べ慣れた器。
  • 食べ始めるきっかけ:最初のひと口を介助する、手にスプーンを持ってもらう、向かいで一緒に食べる。
  • 時間帯と回数:調子のよい時間帯に主な食事を。1日3回にこだわらず、少量を回数多く。
  • 急かさず、無理強いしない:食べないときは時間をおいて、もう一度。水分は食事と別に、こまめに。
食形態やとろみは、飲み込みの状態に合わせて

きざみ食やとろみは有効な場合がありますが、誰にでも一律に勧められるものではありません。飲み込みの状態に合わない食形態は、かえって食べにくさや誤嚥の原因になることがあります。日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「嚥下調整食分類2021」も、一人ひとりの嚥下機能の評価に基づいて選ぶことを前提にしています。むせが目立つ場合は、自己流でとろみを強くする前にご相談ください。

リバスチグミン貼付剤と食事量に関する研究

リバスチグミン(貼り薬)とは

リバスチグミンは、アルツハイマー型認知症の治療薬の一つで、日本では1日1回貼り替える貼付剤(商品名:リバスタッチパッチ、イクセロンパッチ、後発品のリバスチグミンテープ)として使われています。承認されている効能・効果は「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」です(リバスタッチパッチ電子添文、2026年7月改訂)。食欲不振そのものに対して承認された食欲増進薬ではなく、認知症のない方の食欲低下や、アルツハイマー型以外の認知症に使う薬でもありません。

作用のしくみは、脳内で神経伝達物質アセチルコリンを分解する酵素(アセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼ)の働きを抑え、アセチルコリンの量を保つことです。

研究の概要(FOOD-ARRIVE研究、2019年)

2019年に発表されたFOOD-ARRIVE研究(Tsunoら、Geriatrics & Gerontology International)は、日本の17施設で行われた16週間の多施設・前向き・単群観察研究です。対象は、食欲低下または食事摂取不良があり、食事に介助を必要とするアルツハイマー型認知症の方で、全員が入院・入所中でした。

研究の規模

17施設

日本国内の多施設
単群観察研究(比較群なし)

解析対象

37人

平均86.2歳、平均体重39.6kg
MMSE平均10.1点(30点満点)

観察期間

16週間

完了19人
16週の食事量評価は17人

登録は38人で、1人が除外されて37人が解析対象となりました。高齢で体格が小さく、認知症が進んだ方が中心です。食事量は、食事のたびに食前と食後の重さの差から摂取量(g)を測り、提供量に対する割合(摂取率)とともに、その日の平均値で評価しました。

観察された変化

開始1週後から、食事摂取量と摂取率の増加が観察されました。開始前の平均摂取率は約40%でした。16週時点では、摂取量の増加は統計学的に有意でしたが、摂取率の増加は有意ではありませんでした。体重とMMSEには有意な変化はみられていません。

FOOD-ARRIVE研究における食事摂取量・摂取率の変化(開始前との比較)
時点 食事摂取量の変化 食事摂取率の変化
1週 +54.9g(34人、p=0.003) +9.3ポイント(33人、p=0.005)
16週 +101.3g(17人、p=0.032) +10.2ポイント(17人、p=0.19、有意差なし)

※変化は、その時点で評価できた方の開始前からの平均変化量です。摂取量は各食事から求めたその日の平均値で、1日の合計量ではありません。時点ごとに評価人数が異なるため、数字を単純に足し引きすることはできません。

この研究から言えないこと
  • 薬を使わない比較群がなく、途中で観察を終えた方も多い(37人中18人。理由は有害事象6人、退院・退所9人、転院3人で、退院・転院の多くは症状が改善したためと記載されています)ため、食事量の増加が薬の効果だと断定できません。施設での食事介助や環境の影響が含まれている可能性があります。
  • 食事量の増加から、体重の増加、認知機能の改善、寿命の延長、誤嚥性肺炎の予防までは示されていません。
  • MMSEが高い群と低い群の差はp=0.07で有意ではなく、「軽い方ほど効く」とは言えません。
  • 他の認知症治療薬との比較試験ではないため、優劣は判断できません。
  • 入院・入所中の方を対象とした研究で、ご自宅で暮らす方全体にそのまま当てはまるとは限りません。
  • 食欲への影響のしくみとして、研究者は、食欲に関わるホルモン「グレリン」の分解が抑えられる可能性を仮説の一つとして挙げていますが、この研究でしくみが証明されたわけではありません。
  • この研究は小野薬品工業の支援を受けており、著者の一部は製薬企業から研究費や講演料を受けています。
副作用と、使うときの注意

電子添文には、貼った部位の赤み・かゆみ、悪心・嘔吐、食欲減退(いずれも5%以上)、下痢、体重減少(1~5%未満)のほか、重大な副作用として徐脈や失神、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、脱水などが記載されています。貼り薬であっても、吐き気や下痢などの胃腸症状は起こりえます。この薬自体が食欲減退や体重減少の原因になることもあり、治療中は体重の変化に注意するよう求められています。

研究では、38人中16人に有害事象(薬との因果関係を問わない好ましくない出来事で、薬が原因と判断された副作用とは別のもの)が報告され、最も多かったのは貼付部位の赤みでした。消化器系の有害事象は報告されていませんが、少人数・短期間の観察であり、一般的な安全性の保証にはなりません。

貼り薬を使っている方・ご家族へ

貼り替えのときは、先に貼っている薬を必ず剥がしてください。剥がさずに重ねて貼ったために過量投与となり、重い副作用が起きた例が報告されています。貼る場所は毎回変えます。枚数や量を変える、ほかの認知症の薬から切り替えるといったことは、自己判断では行わないでください。

治療薬を見直すときの考え方

食事量の低下は、薬だけで解決する問題ではありません。認知症の薬を変えるかどうかを考える前に、次の順番で確認します。

  1. 認知症の病型:アルツハイマー型か、レビー小体型・血管性など別の型か。リバスチグミンはアルツハイマー型認知症にのみ承認されており、治療は病型の診断が前提です(日本神経学会 認知症疾患診療ガイドライン2017)。
  2. 今の薬:認知症の薬を含め、食欲低下を起こしうる薬がないか。薬を減らす・変える方が先のこともあります。
  3. 体調と栄養状態:便秘、感染、脱水、口の状態、飲み込み、体重の推移。
  4. 食事と介助:環境、食形態、介助の方法、栄養補助食品の活用。

その上で、認知症の薬を変更・追加する意味があるかを主治医と相談します。変更しても食欲が戻るとは限らず、副作用(胃腸症状や食欲減退)でかえって食べられなくなる可能性もあることを含めて判断します。

早めの受診が必要なサイン

  • 数日のうちに急に食べられなくなった
  • 水分がとれない、尿が少ない・濃い、口の中が乾いている
  • 強い眠気、ぼんやりしている、いつもと違う受け答え
  • 発熱、むせを繰り返す、痰が増えた、呼吸が速い
  • 嘔吐や下痢が続く
  • 目立つ体重減少(数か月で数kgなど)

迷わず救急へ

呼吸が苦しそう、呼びかけへの反応が明らかに鈍い、意識がはっきりしない場合は、時間帯を問わず救急(119番)に連絡してください。

かとう内科へのご相談について

ご家族へのメッセージ

当院では「食べない」というご相談を、認知症の症状だけでなく、内科的な体調や薬の影響も含めて確認する視点で診ています。経過をうかがい、口の中、脱水や便秘、感染の有無、体重、服用中の薬を確認し、必要に応じて検査を行います。認知症の薬の見直しも、その上で一緒に考えます。

診療時間は、月曜~土曜 9:00~12:30、月曜~木曜・土曜 14:00~17:30(金曜午後、日曜、祝日は休診)です。今治市で認知症のご家族の食事のことでお困りの際は、お気軽にご相談ください。

よくあるご質問

Q. 認知症で食べないとき、無理に食べさせた方がよいですか?

A. 無理強いはおすすめしません。むせや誤嚥のリスクが高まり、食事を嫌がるきっかけにもなります。時間をおいて再度勧める、好みのものを少量ずつ出す、水分を優先する、が基本です。数日食べられない、水分がとれないときは早めに受診してください。

Q. 貼り薬を使えば、食欲は必ず戻りますか?

A. いいえ。リバスチグミン貼付剤は食欲増進薬として承認された薬ではなく、紹介した研究も小規模で比較群のない観察研究です。副作用として食欲減退や体重減少が記載されていることも踏まえ、原因の評価と食事介助を含めて治療を考えます。

Q. 今の認知症の薬から変更した方がよいですか?

A. 一概には言えません。認知症の病型、今の薬の効果と副作用、食欲低下の原因の評価が先です。自己判断で中止や切り替えをせず、主治医にご相談ください。

Q. 食事量が減っても、体重が変わらなければ大丈夫ですか?

A. 体重は大切な目安の一つですが、むくみや脱水で見かけの体重が変わることもあります。食事量の減少が続く場合は、体重が保たれていても原因の確認をおすすめします。月に1回程度、同じ条件で体重を測る習慣が役立ちます。

この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。

この記事の監修

かとう内科 院長 加藤丈陽
日本内科学会 総合内科専門医(029447)/日本神経学会 神経内科専門医(第5474号)・神経内科指導医(第3843号)/日本認知症学会 認知症専門医・指導医/日本老年医学会 老年病専門医
かとう内科 〒794-0821 愛媛県今治市立花町1-10-5 TEL 0898-23-2310

参考文献

  1. Tsuno N, Mori T, Ishikawa I, et al. Efficacy of rivastigmine transdermal therapy on low food intake in patients with Alzheimer's disease: The Attitude Towards Food Consumption in Alzheimer's Disease Patients Revive with Rivastigmine Effects study. Geriatrics & Gerontology International. 2019;19:571–576. https://doi.org/10.1111/ggi.13644
  2. 小野薬品工業. リバスタッチパッチ4.5mg/9mg/13.5mg/18mg 電子添文(2026年7月改訂、第5版). PMDA 医療用医薬品情報
  3. ノバルティスファーマ. イクセロンパッチ4.5mg/9mg/13.5mg/18mg 電子添文(2024年10月改訂). PMDA 医療用医薬品情報
  4. 厚生労働省. 高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編). 2018年5月. 厚生労働省サイト(PDF)
  5. 厚生労働省 e-ヘルスネット. 高齢者の低栄養予防. e-ヘルスネット(健康日本21アクション支援システム)
  6. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会. 嚥下調整食分類2021. https://www.jsdr.or.jp/doc/classification2021.html
  7. 日本作業療法士協会. 食べない認知症患者、どうしたらいい? https://www.jaot.or.jp/ot_support/qa/detail/84/
  8. 日本神経学会. 認知症疾患診療ガイドライン2017. https://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo_2017.html

この記事を最後に更新した日:2026年9月11日

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