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睡眠時無呼吸は、糖尿病性神経障害(足のしびれ)と関連している?
2型糖尿病患者234人を調べた横断研究が示した、睡眠時無呼吸と末梢神経障害の関連
2026.07.16 更新
「大きないびきを指摘された」「眠っている間に呼吸が止まっていると言われた」――こうした睡眠時無呼吸と、糖尿病で足がしびれる末梢神経障害。一見つながりのなさそうなこの2つに、関連がみられるかもしれない、という研究があります。しかも、睡眠時無呼吸があっても昼間それほど眠くない方も少なくありません。今回は、英国で2型糖尿病の患者さん234人を調べた横断研究を、研究の限界もふくめて分かりやすくご紹介します。
この記事の結論(先にまとめ)
- この研究では、糖尿病性の末梢神経障害を持つ人の割合は、睡眠時無呼吸ありで60%、なしで27%でした。
- 年齢・肥満・糖尿病の期間などの背景因子を調整した後も、睡眠時無呼吸は神経障害と関連していました(調整オッズ比2.82、95%信頼区間1.44~5.52)。オッズ比は"関連の強さ"を表す指標で、「発症率が2.82倍」という意味ではありません。
- 神経障害の重症度はAHI(無呼吸の頻度)と関連し、背景因子を調整した後もこの関連は残りました。一方、夜間低酸素の指標(酸素が下がった回数や時間など)は、調整前は関連がみられたものの、調整後には統計学的に有意ではありませんでした。
- これは横断研究で、「睡眠時無呼吸が神経障害を起こす」という因果を証明したものではありません。
- 睡眠時無呼吸があっても強い日中の眠気を示さない人が多く、「眠くないから大丈夫」とは言えません。
- 足のしびれやトラブルがある方が、いびき・呼吸停止の指摘に気づいたときに、睡眠の検査を考えるきっかけになる報告です。
なぜ「睡眠時無呼吸」と「神経障害」の関連が調べられたのか
どちらも糖尿病の方に多い、身近な問題です
糖尿病の合併症のなかでも、末梢神経障害(しびれ・感覚の低下)はとても多く、足の潰瘍や歩行の不安定さにつながることもある、生活に直結する問題です。
一方の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、眠っている間にのどの奥(気道)がふさがり、呼吸が何度も浅くなったり止まったりする状態です。そのたびに血液中の酸素が下がり(低酸素)、体は小さな「起こされ」を繰り返します。2型糖尿病の方には、この睡眠時無呼吸を合併している人が多いことが知られています。この記事では、以後「OSA」または「睡眠時無呼吸」と表記します。
睡眠時無呼吸では、体の炎症や「酸化ストレス」(体をさびつかせるような負担)が増えることが報告されています。神経障害も、こうした酸化ストレスが関わると考えられています。そこで研究者は、「睡眠時無呼吸と神経障害には関連があるのではないか」と考え、両者の関係を調べました。あくまで"関連を確かめる"ことが目的で、どちらが原因かを決める研究ではありません。
どんな研究だったのか
英国の外来に通う2型糖尿病患者234人を調べた横断研究
この研究は、英国の2つの病院の糖尿病外来に通う成人を対象にした横断研究です。すでに睡眠時無呼吸と診断されている人や、糖尿病以外が原因の神経障害がある人などは、あらかじめ除いています。最終的に234人が分析されました。
調べた内容
神経障害は、世界的に使われている問診+診察のチェック法(ミシガン神経障害スクリーニング法=MNSI)で判定しました。加えて、足の裏の感覚を10gモノフィラメントという細い糸で押して調べる「足の感覚検査」も行っています。
睡眠時無呼吸は、入院ではなく自宅で行う簡易的な呼吸の検査を一晩使って調べました。1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(AHI)が5回以上の場合を、この研究では「睡眠時無呼吸あり」と定義しています。
この研究に参加した234人のうち65%に睡眠時無呼吸が認められました。ただしこれは、あらかじめ未診断の方を集めた本研究の参加者での割合であり、「すべての2型糖尿病の方の65%にある」という意味ではありません。
睡眠時無呼吸があった151人の内訳は、軽症60%・中等症23%・重症17%で、軽症の方が多くを占めていました。
結果①:無呼吸のある人ほど、神経障害を持つ割合が高かった
神経障害を持つ割合は「60% vs 27%」、条件をそろえた比較でも関連が残った
もっとも大きな結果はこれです。神経障害を持っている人の割合は、睡眠時無呼吸がある人で60%、ない人で27%と、はっきり差がありました(この単純な比較でP<0.001)。
ただし、睡眠時無呼吸のある人は「年齢が高め」「糖尿病の期間が長い」「肥満の程度が強い」といった傾向もあり、これらは神経障害そのものの危険因子でもあります。そこで研究者は、これらの影響を統計的に差し引いても関連が残るかを、2通りの方法で確かめました。
2通りの解析結果
| 解析 | OSAあり | OSAなし | 調整オッズ比 (95%信頼区間) |
P値 |
|---|---|---|---|---|
| 全234人 | 60% | 27% | 2.82(1.44~5.52) | 0.003 |
| 条件をそろえた140人※ | 53% | 24% | 3.92(1.54~9.96) | 0.004 |
※肥満(BMI)や糖尿病の期間などをできるだけそろえた70人ずつ・計140人での比較です。
いずれの方法でも、背景因子を調整・そろえた後も睡眠時無呼吸のある人で神経障害を持つオッズが高いという関連が残りました。
「オッズ比2.82」の読み方について
この2.82はオッズ比という指標で、「睡眠時無呼吸があると神経障害が2.82倍"発症する"」という意味ではありません。より正確には、背景因子を調整した後も、睡眠時無呼吸がある人では神経障害を持つオッズが2.82倍だった、という関連の強さを表します。
また、この研究は一時点で両者を同時に調べた横断研究のため、どちらが先か(原因と結果の向き)まではわかりません。
結果②:足の感覚の低下とも関連していた
足潰瘍のリスクにつながる「感じにくい足」との関連
神経障害のなかでも特に注意したいのが、足の裏の感覚が鈍くなることです。感覚が落ちると、靴ずれや小さな傷に気づきにくくなり、足潰瘍につながることがあります。
この研究では、10gモノフィラメントで調べた「足の感覚の低下(感じにくい足)」も、睡眠時無呼吸のある人で多くみられました。全234人では、睡眠時無呼吸ありで50%、なしで15%でした。
| 解析 | OSAあり | OSAなし | 調整オッズ比 (95%信頼区間) |
P値 |
|---|---|---|---|---|
| 全234人 | 50% | 15% | 3.97(1.80~8.74) | 0.001 |
| 条件をそろえた140人 | 43% | 13% | 5.56(1.82~16.97) | 0.003 |
統計的な調整のあとでも、睡眠時無呼吸はこの「感じにくい足」と関連していました。
足潰瘍についての正確な受け止め方
少人数の結果です
診察時に足潰瘍が確認された8人は、全員が睡眠時無呼吸のあるグループに含まれていました(睡眠時無呼吸のないグループは0人)。ただし、該当者は8人と少なく、この結果だけで睡眠時無呼吸と足潰瘍の因果関係や、一般的な発症リスクを判断することはできません。
なお、これは「診察時の潰瘍」の話です。別に問診でたずねた「過去に足に傷やただれができたことがある」という経験も、睡眠時無呼吸のある人で多くみられました(27%対7%)。「診察時の潰瘍」と「過去の経験」は別の項目である点にご注意ください。
結果③:AHIが高いほど、神経障害が重い傾向
夜間低酸素との関連もみられましたが、調整後の解釈には注意が必要です
研究者は、神経障害の「あるかないか」だけでなく、重症度との関係も調べました。神経障害の診察スコアで患者さんを3つのグループ(軽い~重い)に分けたところ、重症のグループほどAHI(無呼吸の頻度)が高い傾向がみられました。
年齢・肥満・糖尿病の期間・腎機能などを調整した後の各グループのAHIは、おおむね5.5 → 6.3 → 11.0と上昇し、この傾向は統計学的に有意でした(傾向のP=0.02)。
夜間低酸素の指標は、調整後には有意ではなかった
一方で、夜間の低酸素をあらわす指標については、調整前は関連がみられましたが、背景因子を調整した後には、統計学的に有意ではなくなりました。
調整後の各指標のP値:
・酸素が下がった回数(ODI)… P=0.08
・酸素飽和度が90%未満だった時間 … P=0.89
・夜間の最低酸素飽和度 … P=0.26
つまり、神経障害の重症度と調整後も有意に関連していたのはAHIでした。夜間低酸素の指標が「他の要因とは別に、独立して神経障害を悪くした」とまでは、この研究からは言えません。ただし、「有意でなかった」ことは「まったく関係がない」ことを意味するわけでもありません。
「重いほど必ず増える」わけではない
神経障害の有無でみた割合は、軽症60%・中等症57%・重症62%で、睡眠時無呼吸が重くなるほど段階的に神経障害が増えるという、明確な用量反応関係は確認されていません。軽症も中等症~重症も、いずれも睡眠時無呼吸のない人と比べて神経障害との関連がみられましたが、「重症になるほど必ず神経障害が増える」とは言えない結果でした。
なぜ関連するのか ― 考えられるしくみ
一部の患者さんを対象にしたサブグループ解析からのヒント
はじめに(対象人数について)
酸化・ニトロ化ストレスに関する血液検査は102人、皮膚の微小血管機能の解析は71人で行われました。以下は234人全員を対象にした結果ではなく、睡眠時無呼吸と神経障害をつなぐ可能性のあるしくみを検討したサブグループ解析です。関連や仮説として受け止めてください。
① 酸化・ニトロ化ストレス(体のさびつき)の指標が高かった
睡眠時無呼吸では、眠っている間に「酸素が下がる→戻る」を何度もくり返します。これは体にとって、血流が止まってまた流れる状態のくり返しに似ていて、体をさびつかせるような物質が生まれやすくなると考えられています。
この研究(102人)でも、ニトロチロシンという「さびつき(ニトロ化ストレス)」の指標は、睡眠時無呼吸なしで中央値15.5nM、ありで23.5nMと、ありの人で高い値でした。睡眠時無呼吸が重いほど高くなる傾向もあり、夜間低酸素の指標とも相関していました。ただし、これだけで神経障害の原因と証明されたわけではありません。
② 細い血管の血流調節に差がみられた
神経は、まわりのとても細い血管(微小循環)から酸素や栄養をもらっています。この研究(71人)では、皮膚の細い血管の血流を調べたところ、睡眠時無呼吸のある人では次のような差がみられました。
・安静時の血流が低かった(背景因子を調整した後も差が残りました)
・血管を広げる刺激(アセチルコリン、ニトロプルシドナトリウム)に対する反応も、単純比較では低めでした
・調整後は、ニトロプルシドナトリウムに対する反応の差は残りましたが、アセチルコリンに対する反応の差は統計学的に有意ではありませんでした
まとめると、「くり返す低酸素 → さびつきの指標の上昇や細い血管の反応の変化 → 神経が影響を受けやすくなる」という道すじが"考えられるしくみ"として想定されています。ただし、いずれもこの研究で因果が証明されたわけではなく、あくまで関連と仮説の段階です。
この研究の限界
「関連」であって「因果の証明」ではない、という前提
とても示唆に富む研究ですが、結果を受け止めるうえで、いくつかの限界を知っておくことが大切です。
この研究の主な限界
・横断研究である:一時点をとらえた研究のため、因果関係は証明できません。睡眠時無呼吸が神経障害を起こしたとは断定できず、逆に神経障害や共通の別要因が睡眠時無呼吸と関係している可能性も残ります。
・治療での検証はしていない:「睡眠時無呼吸を治療(CPAPなど)すれば神経障害が改善・予防できるか」は、この研究では確かめられていません。
・検査方法:睡眠の検査は、入院での精密検査(終夜睡眠ポリグラフ=PSG)ではなく、自宅での呼吸モニタリングでした。
・神経障害の評価:MNSIとモノフィラメントによる評価で、神経伝導検査による精密な重症度評価ではありません。
・サブグループ解析:酸化ストレスや微小血管機能の結果は、一部の患者さんを対象にした解析です。
・対象集団:英国2施設の外来患者の結果であり、ほかの集団にそのまま当てはめられるとは限りません。
この研究は、2012年に報告された、睡眠時無呼吸と糖尿病性末梢神経障害の関連を初期に示した研究の一つです。その後も、睡眠時無呼吸と糖尿病の合併症に関する研究は続いています。新しい知見を加える際は、この解説とは分けて、出典を明記してご紹介します。
糖尿病の方・ご家族へ ― 見逃さないための一般的な注意
「しびれ」と「いびき・呼吸停止」が重なるときは、一度立ち止まって
気づきのサインが重なっていないか
「足のしびれ・感覚の低下」といった神経の症状と、「大きないびき」「呼吸が止まると指摘された」「日中の眠気」「起床時の頭痛や熟睡感のなさ」「夜間に何度もトイレに起きる」といった睡眠のサインが重なっている方は、睡眠時無呼吸が隠れている可能性があります。これらのサインは一般的な目安で、この研究で一つひとつ検証されたものではありません。
「眠くないから大丈夫」とは限りません
【この研究でわかったこと】日中の眠気の点数(エプワース眠気尺度)の中央値は、睡眠時無呼吸なしで5点、ありで8点でした(P=0.003)。ありの人の方が点数は高かったものの、中央値8点は、集団として強い日中の眠気を示す水準ではありませんでした。
【一般的な注意】そのため、2型糖尿病の方では「昼間に眠くない」という理由だけで睡眠時無呼吸を否定することはできません。いびきや呼吸停止を指摘されたことがあれば、眠気の有無にかかわらず一度ご相談ください。
足の観察を習慣に
感覚が鈍くなると、傷や靴ずれに気づきにくくなります。毎日、足の裏や指の間を見る・触れる習慣をつけていただくと、早い段階でトラブルに気づけます(これも一般的な予防のすすめです)。
検査について
睡眠時無呼吸の検査は、まず自宅でできる簡易検査から始められます。より詳しく調べる必要がある場合は、入院での精密検査(終夜睡眠ポリグラフ検査=PSG)も行っています。検査の結果、治療が必要と判断された場合は、CPAP治療の導入まで当院で対応しています。糖尿病の管理とあわせて、気になる点を遠慮なくお聞かせください。
用語の解説
記事に出てきた言葉のミニ辞典
| 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA) | 睡眠中に気道(のどの奥)がふさがり、呼吸が繰り返し浅くなったり止まったりする状態。血液中の酸素低下などを起こします。この記事では「睡眠時無呼吸」または「OSA」と表記しています。 |
|---|---|
| 末梢神経障害(DPN) | 糖尿病の合併症のひとつ。手足のしびれ、痛み、感覚の低下などが起こります。 |
| AHI | 無呼吸低呼吸指数。睡眠1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数を示します。この研究では、家庭用の呼吸検査でAHIが5回以上の場合を睡眠時無呼吸ありと定義しました。 |
| ODI/最低酸素飽和度 | 夜間の低酸素をあらわす指標。酸素が下がった回数(ODI)や、夜間の最も低い酸素飽和度など。 |
| MNSI | ミシガン神経障害スクリーニング法。問診と足の診察で神経障害を調べる、世界的に使われている方法です。 |
| モノフィラメント検査 | 細い糸(10g)で足の裏を押し、感覚が保たれているかを調べる検査。感じにくい足は潰瘍のリスクが高まります。 |
| CPAP | 持続陽圧呼吸療法。睡眠中に空気を送り、気道がふさがるのを防ぐ、睡眠時無呼吸の代表的な治療です(この研究では治療効果は検証していません)。 |
| オッズ比 | 2つの状態が一緒に見られやすい"関連の強さ"を表す指標。「何倍発症する」という発症率そのものではありません。 |
| 調整(多変量調整) | 年齢や肥満など、結果に影響しうる他の要因の影響を統計的に差し引くこと。「調整後も関連が残る」ときに、独立した関連と表現します。 |
| 横断研究 | ある一時点の状態をまとめて調べる研究。関連は分かりますが、原因と結果の前後関係(因果)は証明できません。 |
参考文献と監修
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原著論文
Tahrani AA, Ali A, Raymond NT, Begum S, Dubb K, Mughal S, Jose B, Piya MK, Barnett AH, Stevens MJ.
Obstructive Sleep Apnea and Diabetic Neuropathy: A Novel Association in Patients with Type 2 Diabetes.
American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine. 2012;186(5):434–441.
doi:10.1164/rccm.201112-2135OC
本記事は、上記の原著論文の内容にもとづき、一般の方向けに日本語で要約・解説したものです。数値は原著の報告に準じています。個々の症状や治療については、主治医にご相談ください。
監修
かとう内科(愛媛県今治市立花町1-10-5/TEL 0898-23-2310) 院長 加藤 丈陽
日本内科学会 総合内科専門医(029447)/日本神経学会 神経内科専門医(第5474号)・神経内科指導医(第3843号)/日本認知症学会 認知症専門医・指導医/日本老年医学会 老年病専門医
この記事を最後に更新した日:2026年7月16日
