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  • 睡眠不足・不眠症・睡眠時無呼吸は緑内障と関係する?日本の大規模研究を解説|今治市 かとう内科

6時間未満の睡眠で、目の奥の神経が薄くなる?

不眠症・睡眠時無呼吸症候群と緑内障の関連を報告した日本の大規模研究

2026.07.14 更新

睡眠不足は、日中の眠気や集中力の低下だけでなく、心臓や血管の病気、代謝の異常、神経の変性とも関係すると考えられています。

では、睡眠は「目の神経」にも影響するのでしょうか。

2025年に米国の眼科専門誌 American Journal of Ophthalmology に掲載された日本の研究は、この問いに正面から取り組んだものです。客観的に測定した短い睡眠時間と、目の奥にある神経の層の厚さ。さらに、不眠症・睡眠時無呼吸症候群と、その後の緑内障の発症との関連が調べられました。

この記事の結論

  • 6時間未満の睡眠は、6~8時間の睡眠と比べて、網膜の神経の層がごくわずかに薄いことと関連していました。
  • 不眠症の方では、緑内障の発症しやすさが約30%高いという結果でした。
  • 睡眠時無呼吸症候群の方では、約43%高いという結果でした。
  • ただし、これは「睡眠不足が緑内障を引き起こす」と証明したものではありません。あくまで「関連がある」という段階の研究です。

この研究で分かった、3つのこと

数字で見る、研究の要点

この研究で報告された、中心となる3つの結果です。

6時間未満の睡眠

−0.76μm

6~8時間睡眠と比べた
網膜の神経の層の厚さの差

不眠症

1.30

緑内障の
発症ハザード

睡眠時無呼吸症候群

1.43

緑内障の
発症ハザード

表1:この研究の3つの主要結果
調べたこと 結果 統計値
6時間未満の睡眠 6~8時間睡眠と比べ、網膜神経線維層(RNFL)が平均0.76μm薄い 95%信頼区間 −1.33~−0.19
P=0.008
不眠症 緑内障の発症ハザードが対照群より約30%高い 調整ハザード比 1.30
95%信頼区間 1.28~1.32
睡眠時無呼吸症候群 緑内障の発症ハザードが対照群より約43%高い 調整ハザード比 1.43
95%信頼区間 1.35~1.51

はじめにお伝えしたいこと

これらはすべて「関連」であって、「原因」ではありません。睡眠不足が緑内障を引き起こすと証明されたわけではなく、また、睡眠を改善すれば緑内障を防げると示されたわけでもありません。この点は、記事の中で繰り返しご説明します。

この論文は、性格の異なる2つの研究を組み合わせている

地域住民を対象とした「長浜研究」と、全国規模の「NDB研究」

この研究の特徴は、まったく性格の違う2つのデータを組み合わせた点にあります。それぞれ得意なことと苦手なことが違うため、両方を見ることで、より確からしい姿が見えてきます。

1つ目:長浜研究(地域住民を対象とした詳しい検査)

滋賀県長浜市で行われた地域住民研究です。40~80歳の成人5,958人を対象に、手首に装着するアクチグラフィという機器で、実際に何時間眠れていたかを測定しました。さらに、睡眠中の血液中の酸素の状態と、OCT(光干渉断層計)による目の奥の神経の層の厚さも調べています。

睡眠を「自己申告」ではなく機械で客観的に測った点が、この研究の強みです。

2つ目:全国NDB研究(日本中の保険診療データ)

日本のほぼすべての保険診療の記録を集めたデータベース(NDB)を使った研究です。不眠症の患者さん985,136人、睡眠時無呼吸症候群の患者さん72,075人、そしてそれぞれ数千万人規模の比較対象が対象になりました。

これらの方々を最大およそ7年半にわたって追跡し、その後に新しく緑内障と診断される頻度を比べています。

表2:2つの研究の比較
  長浜研究 全国NDB研究
対象人数 5,958人 不眠症 985,136人
睡眠時無呼吸 72,075人
(対照群は数千万人規模)
調べた期間 一時点(横断研究) 最大約7年半の追跡
睡眠の測り方 アクチグラフィ・パルスオキシメータによる客観的測定 医療機関での診断名と処方の記録
目の評価 OCTによる網膜神経線維層の厚さ、眼圧、眼軸長 緑内障の診断名+緑内障の点眼薬の処方
分かること 睡眠と網膜の構造との関連 睡眠障害と、その後の緑内障発症との関連
苦手なこと 時間の前後関係が分からない 詳しい検査値や視野の情報がない

RNFL(網膜神経線維層)とは何か

目の奥にある、神経の「じゅうたん」のような層

この記事で何度も出てくる RNFL は、網膜神経線維層(もうまくしんけいせんいそう / Retinal Nerve Fiber Layer)の略です。

目の奥にある網膜で光を受け取った情報は、網膜神経節細胞という細胞を通り、その神経線維が束になって視神経へ送られていきます。RNFLは、この神経線維が集まっている層です。じゅうたんのように敷き詰められている、とイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。

緑内障では、この神経細胞と神経線維が少しずつ障害されていきます。そのためRNFLの厚さは、緑内障による神経の変化を評価する、重要な手がかりとして使われています。厚いほど健康、薄くなっていくと注意が必要、という関係です。

誤解しやすい点

RNFLがやや薄いことと、緑内障と診断されることは、同じではありません。

RNFLの厚さは、年齢、眼軸長(目の長さ)、近視の強さ、測定時の条件、そして単純な個人差によっても変わります。「薄め」と言われたからといって、それだけで緑内障というわけではありません。

網膜の神経が最も厚かったのは、6~7時間睡眠の人だった

長浜研究 5,958人の解析結果

長浜研究に参加した5,958人の平均実睡眠時間は、359.8分(およそ6時間)でした。日本人らしく、短めです。

睡眠時間を5つのグループに分けて比べたところ、平均RNFL厚が最も厚かったのは、6~7時間睡眠のグループでした。そこから睡眠時間が短くなるほど、RNFLは薄くなる傾向を示しています。

表3:長浜研究における睡眠時間の分布とRNFLの傾向
実睡眠時間 参加者の割合 網膜神経線維層(RNFL)の傾向
5時間未満 14.0% 薄い傾向
5~6時間 34.7% やや薄い傾向
6~7時間 37.8% 最も厚い
7~8時間 11.6% やや薄い傾向
8時間超 2.0% 薄い傾向(ただし人数が少なく、判断は難しい)

グループ間の差は統計学的に意味のあるものでした(P=0.021)。ただし、8時間を超えて眠っていた人は全体のわずか2.0%しかいないため、「長く眠りすぎるのも目に悪い」と結論することは、このデータからはできません。

参考として、長浜研究の参加者全体の平均は、次のような値でした。

表4:長浜研究の参加者の平均像(5,958人)
項目 平均値
年齢 59.1 ± 10.7 歳
網膜神経線維層(RNFL)の厚さ 100.8 ± 11.9 μm
眼圧(IOP) 14.3 ± 2.9 mmHg
実睡眠時間 359.8 ± 57.9 分(約6時間)
睡眠効率 84.8 ± 6.4 %

「0.76μm」という差を、どう受け止めるか

統計学的に有意であることと、差が大きいことは、別のことです

年齢、性別、眼圧、眼軸長、体格、高血圧、糖尿病、脂質異常症、睡眠中の低酸素、睡眠薬の使用などの影響を差し引いた解析でも、6時間未満の睡眠は、RNFLが薄いことと関連していました。

表5:多変量解析でみた、睡眠時間と網膜神経線維層の厚さ
睡眠時間 6~8時間と比べたRNFL厚の差 P値
6時間未満 −0.76 μm
(95%信頼区間 −1.33~−0.19)
0.008
(意味のある差)
8時間超 −1.01 μm
(95%信頼区間 −2.45~0.43)
0.474
(意味のある差とは言えない)

この0.76μmは、大きいのでしょうか、小さいのでしょうか

ここは、正直にお伝えしたい部分です。

長浜研究の参加者全体の平均RNFL厚は100.8μmでした。ですから、0.76μmという差は、平均値のおよそ0.75%にすぎません。

統計学的には「偶然ではない差」と判断されますが、差の大きさ自体は、非常に小さいのです。

正確な表現とは

「6時間未満の睡眠で、目の神経が大きく傷む」という言い方は、正しくありません。

より正確には、「6時間未満の睡眠は、集団全体の平均として、わずかに薄いRNFLと関連していた」という結果です。個人のレベルで、目に見えるような変化が起きるという意味ではありません。

もうひとつ、大切な注意点

長浜研究は、ある一時点で睡眠とRNFLを同時に測っただけの研究(横断研究)です。

したがって、次の3つを区別することができません。

  • 短い睡眠のせいでRNFLが薄くなったのか
  • もともとRNFLが薄い人に、たまたま短時間睡眠が多かったのか
  • 別の健康上の要因が、睡眠の短さとRNFLの薄さの両方を引き起こしていたのか

どれが正しいのかは、この研究からは分かりません。

短時間睡眠の人で、眼圧が高かったわけではない

眼圧以外の経路が関わっている可能性

緑内障といえば、眼圧(目の中の圧力)が重要な危険因子であることが、古くから知られています。

ところが、この研究では意外なことが分かりました。眼圧が最も高かったのは、7~8時間睡眠のグループだったのです(P=0.0089)。

つまり、RNFLが薄い傾向にあった短時間睡眠のグループで、眼圧が高かったわけではありませんでした。

図:睡眠時間別にみた「網膜の神経の厚さ」と「眼圧」の傾向

同じ睡眠時間の並びで、上段が「網膜神経の厚さ」、下段が「眼圧」です。棒が高いほど値が大きいことを表します。厚さのピークは6~7時間、眼圧のピークは7~8時間と、山の位置がずれているのが読みどころです。

網膜神経線維層(RNFL)の厚さ

最も厚い

眼圧(IOP)

眼圧のピーク
5時間
未満
5~6
時間
6~7
時間
7~8
時間
8時間

この「ずれ」が大切です。もし「眼圧が高いからRNFLが薄くなる」だけの関係なら、2つの山は同じ位置に来るはずです。ところが実際にはRNFLの山(6~7時間)と眼圧の山(7~8時間)がずれており、短時間睡眠とRNFL菲薄化の関連は、眼圧だけでは説明できないことを示しています。

Akada M, et al. Am J Ophthalmol. 2025;280:193–202(Figure 2A・2C)をもとに作成。棒の高さは各グループの相対的な傾向を示す模式的なもので、実際の測定値の目盛りではありません。原著はCC BY 4.0で公開。日本語化および簡略化を実施。

これが意味すること

この結果は、短時間睡眠とRNFLが薄いことの関連が、「眼圧が上がったから」だけでは説明できない可能性を示しています。

考えられるのは、目や視神経への血流、自律神経の変化、睡眠中の酸素の低下、酸化ストレス、炎症、神経の老廃物を掃除する仕組みの低下といった、眼圧以外の経路です。これらについては、次の章でご説明します。

この結果の限界

この研究で測定された眼圧は、日中に1回だけのものです。睡眠中の眼圧や、24時間を通じた眼圧の変動は測定されていません。夜間や横になったときの眼圧が関わっている可能性は、否定できません。

不眠症では、緑内障の発症ハザードが30%高かった

全国NDB研究の結果 ①

ここからは、日本中の保険診療データを使った全国研究の話です。

この研究では、不眠症の患者さん985,136人が対象になりました。ここでの「不眠症」は、新たに不眠症と診断され、その後に睡眠薬を処方された方、と定義されています。

追跡期間中、この不眠症グループから18,954人が新たに緑内障と診断されました。

年齢、性別、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの影響を差し引いて計算した結果、不眠症の方の緑内障発症ハザード比は1.30(95%信頼区間 1.28~1.32)でした。

「ハザード比1.30」の意味を、正確に

この数字は、非常に誤解されやすいものです。ここは丁寧にお伝えします。

表6:ハザード比の正しい読み方
  ハザード比 1.30 の意味
正しい理解 追跡期間中の各時点における、緑内障の発症しやすさが、対照群より約30%高かった
よくある誤解 ① 「不眠症の人の30%が緑内障になる」
違います
よくある誤解 ② 「緑内障になる確率が30ポイント増える」
違います
実際の発症割合 不眠症985,136人のうち、緑内障と診断されたのは18,954人。つまりおよそ2%にとどまります

相対的なリスクは上がっていますが、不眠症の方の大多数は、追跡期間中に緑内障を発症していません。この両方を、あわせて理解していただければと思います。

交絡(こうらく)という問題

不眠症のグループは、比較対象より平均年齢が高く(69.3歳 対 61.4歳)、高血圧や糖尿病を持つ方も多い集団でした。これらを統計的に調整しても関連が残った点は重要です。

ただし、測定されていない要因まで除外できたわけではありません。たとえば、不眠症の方は医療機関を受診する機会が多いため、その分だけ緑内障も「見つかりやすかった」可能性があります。

睡眠時無呼吸症候群では、43%高かった

全国NDB研究の結果 ②

睡眠時無呼吸症候群(SAS)については、72,075人が解析されました。この研究でのSASは、新たに睡眠時無呼吸と診断され、CPAP(持続陽圧呼吸療法)を導入された方、と定義されています。

追跡期間中、このグループから1,276人が新たに緑内障と診断されました。

年齢、性別、糖尿病、高血圧、脂質異常症などを調整したハザード比は1.43(95%信頼区間 1.35~1.51)。つまり、追跡中の緑内障の発症しやすさが、対照群より約43%高かったことになります。

65歳未満と65歳以上に分けた解析でも、どちらの年齢層でも、SASのグループの累積発症率は対照群より高くなっていました。

表7:不眠症グループと睡眠時無呼吸グループの比較
  不眠症 睡眠時無呼吸症候群
対象人数 985,136人 72,075人
平均年齢 69.3歳 59.0歳
男性の割合 39.4% 81.0%
緑内障の新規発症 18,954人 1,276人
調整ハザード比 1.30
(95%CI 1.28~1.32)
1.43
(95%CI 1.35~1.51)

この表を見ると、不眠症と睡眠時無呼吸症候群では、患者さんの顔ぶれがまったく違うことが分かります。不眠症は高齢の女性に多く、睡眠時無呼吸症候群は働き盛りの男性に圧倒的に多い。日々の診療での実感とも一致します。

CPAPについて、必ずお伝えしたいこと

この研究は、CPAPの予防効果を調べた研究ではありません。

今回のSASグループは、そもそもCPAPを導入された患者さんで構成されています。そのため、「CPAPによって緑内障を予防できる」とも、「CPAPによって緑内障のリスクが上がる」とも、どちらの結論もこの研究からは導けません。

CPAPを使用中の方が、この記事を読んで治療をご自身の判断で変更されることのないよう、お願いいたします。

なぜ、睡眠が目の神経と関係するのか

現時点では、いずれも「仮説」の段階です

研究者らは、睡眠障害と網膜の神経の障害を結びつける可能性として、いくつかの仕組みを挙げています。ただし、いずれも今回の研究で直接測定・証明されたものではなく、これまでの研究にもとづく仮説です。

① 自律神経と、目への血流

不眠症では、ストレス反応や自律神経の活性化が起こる可能性があります。自律神経の変化は、血圧、血管の収縮、眼圧、そして目への血流に影響しうるものです。

視神経への血流の低下は、眼圧だけでは説明できない緑内障の神経障害の一因になり得ると考えられています。

② 間欠的な低酸素と、酸化ストレス

睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に呼吸が繰り返し止まり、血液中の酸素が低下します。

この繰り返される酸欠は、酸化ストレス(体がサビつくような状態)、血管の内側の障害、全身の炎症、自律神経の過剰な活性化などを引き起こす可能性があります。睡眠時無呼吸症候群のほうが不眠症よりハザード比が高かったことは、この「酸欠の上乗せ」で説明できるかもしれません。

③ グリンパティック系(老廃物を掃除する仕組み)

脳には、眠っている間に代謝の老廃物を洗い流す仕組みがあると考えられており、グリンパティック系と呼ばれています。下水道のようなものだとお考えください。

近年、網膜にもこれに似た老廃物除去のシステムが存在する可能性が提唱されています。睡眠障害によってこの掃除機能が低下し、アミロイドβなどの物質が溜まることで、網膜の神経細胞の変性に関わるのではないか——という仮説です。

仮説であることの確認

非常に興味深い考え方ですが、今回の研究では、グリンパティック機能もアミロイドβも、直接測定されていません。あくまで「そう説明できるかもしれない」という段階です。

この研究から分かること、まだ分からないこと

「関連」と「原因」は、別のものです

ここまでの内容を、いったん整理します。

表8:この研究から分かること/まだ分からないこと
比較的はっきり言えること まだ証明されていないこと
6時間未満の客観的な睡眠時間は、わずかに薄いRNFLと関連していた 睡眠不足が、緑内障を直接引き起こすこと
臨床的に診断・治療された不眠症は、緑内障発症ハザードの上昇と関連していた 睡眠時間を延ばせば、RNFLが厚くなること
CPAP導入を伴う睡眠時無呼吸症候群は、緑内障発症ハザードの上昇と関連していた 不眠症を治療すれば、緑内障を予防できること
短時間睡眠のグループで、眼圧が高かったわけではない CPAPによって、緑内障を予防できること
睡眠と緑内障の関係は、眼圧だけでは説明できない可能性がある すべての人にとって、6~7時間睡眠が最適であること

左の列と右の列の違いを、ぜひ意識していただければと思います。この研究が示したのは、左の列だけです。

研究を読むうえでの、重要な限界

大規模で価値の高い研究ですが、いくつかの限界があります。医学論文を読む際には、良い結果と同じくらい、限界を見ることが大切です。

表9:この研究の主な限界
限界 内容
因果関係が言えない 長浜研究は一時点の横断研究であり、「睡眠が先か、目の変化が先か」を区別できません
睡眠測定の期間が短い 測定はおよそ1週間。季節・仕事・体調によって睡眠は変わるため、長期的な睡眠習慣を完全には反映していない可能性があります
調整されていない要因 喫煙、飲酒、運動、交代勤務、うつ病、不安症、社会経済状況、家族歴、近視、実際の眼圧などが、NDB研究では十分に調整されていません
見つかりやすさの偏り 睡眠障害のある方は医療機関の受診機会が多く、そのぶん緑内障も発見されやすかった可能性があります
対象集団の偏り 長浜研究は、自立して生活できる健康な地域住民に限られており、重い病気をお持ちの方には当てはまらない可能性があります

原著の数値に関する注記

なお、原著のTable 2において、睡眠効率に関する95%信頼区間とP値が統計学的に整合しない箇所があります。信頼区間が有意を示しているにもかかわらず、P値が非有意となっており、印刷上の誤りの可能性があります。

そのため本記事では、睡眠効率(ぐっすり眠れている割合)については主要な結論として扱わず、数値の整合性が確認できる「短時間睡眠」の結果を中心にご紹介しました。

睡眠障害のある方は、どう考えればよいか

現時点で言えること、言えないこと

この研究だけを根拠に、「睡眠障害のある人は全員、特別な緑内障検査を受けるべきだ」と結論することはできません。そのようなガイドライン上の推奨も、現時点では存在しません。

一方で、睡眠障害が全身の健康だけでなく、網膜や視神経の健康とも関連する可能性が示されたことには、確かな意味があります。

患者さんへ

すでに不眠症や睡眠時無呼吸症候群と診断されている方は、眼科を受診された際に、そのことを医師にお伝えいただいてよいと思います。

とくに、次のような別の要因も重なる場合には、睡眠の状態も含めて総合的に考える意義があります。

  • すでに緑内障と診断されている
  • ご家族に緑内障の方がいる
  • 眼圧が高いと言われたことがある
  • 強い近視がある
  • 糖尿病や高血圧をお持ちである

大切なお願い

睡眠障害の治療は、緑内障の予防だけを目的に、ご自身の判断で変更するものではありません。

現在治療を受けておられる方は、睡眠を担当する医師と眼科医の双方にご相談されながら、治療を継続していただくことが大切です。

また、緑内障そのものの診断と治療は、眼科の専門領域です。当院は睡眠時無呼吸症候群の診断・治療を行っておりますが、目の評価については眼科でのご相談をお願いしております。

よくあるご質問

Q. 睡眠時間が6時間を切ると、緑内障になるのですか?

いいえ、そうとは言えません。この研究で分かったのは、6時間未満の睡眠が、集団全体でみるとごくわずかに薄い網膜神経線維層と「関連していた」ということだけです。差は平均RNFL厚の約0.75%にすぎず、しかも一時点の観察のため、睡眠不足が原因で緑内障になる、と示したものではありません。

Q. たくさん眠るほど、目に良いのですか?

この研究からは、そうは言えません。8時間を超えて眠っていた人は全体の2.0%と非常に少なく、統計的にしっかり評価できていません。「長く眠るほど良い」とも「長すぎると悪い」とも、この研究からは結論できません。

Q. CPAPを使うと、緑内障を防げますか?

この研究では分かりません。今回の睡眠時無呼吸症候群のグループはCPAPを導入された方で構成されており、CPAPの予防効果を調べた研究ではないためです。治療についてはご自身で判断せず、担当医とご相談ください。

Q. 睡眠時無呼吸症候群と言われています。すぐに眼科へ行くべきですか?

この研究だけを理由に、緊急に眼科へ行く必要がある、とまでは言えません。ただし、緑内障の家族歴、強い近視、眼圧が高めなど、ほかの要因も重なる場合には、一度眼科でご相談されると安心です。

Q. 睡眠を改善すれば、薄くなった神経は元に戻りますか?

それを確かめた研究ではありません。一般に、緑内障で失われた視神経は元に戻らないと考えられています。この研究は睡眠と網膜の「関連」を示したもので、睡眠改善による回復を示すものではありません。

まとめ

今回の日本の研究では、短時間睡眠、不眠症、睡眠時無呼吸症候群のそれぞれが、網膜神経の構造、またはその後の緑内障の発症と関連していました。

この記事のまとめ

  • 6時間未満の睡眠は、網膜神経線維層がわずかに薄いことと関連していた(差は0.76μmで、小さい)
  • 短時間睡眠のグループで、眼圧が高かったわけではなかった
  • 不眠症では、緑内障の発症ハザードが約30%高かった
  • 睡眠時無呼吸症候群では、約43%高かった
  • ただし、現時点で分かっているのは「関連」であり、「原因」や「睡眠治療による予防効果」ではありません

これらの結果は、睡眠と緑内障の関係が、単純な眼圧だけでは説明できない可能性を示しています。

睡眠への介入によって、網膜神経線維層の菲薄化や緑内障の発症を防げるのかどうか——それを明らかにするには、今後の長期的な前向き研究や介入研究が必要です。今後の報告を待ちたいと思います。

この記事で使った略語・専門用語

用語のふりかえり

表10:略語・専門用語一覧
略語 日本語 説明
RNFL 網膜神経線維層
Retinal Nerve Fiber Layer
網膜神経節細胞の神経線維が集まる層。緑内障では徐々に薄くなることがあります
OCT 光干渉断層計
Optical Coherence Tomography
光を使って網膜や視神経の周囲の断面を詳しく測定する検査
IOP 眼圧
Intraocular Pressure
眼球内部の圧力。緑内障の重要な危険因子のひとつ
SAS 睡眠時無呼吸症候群
Sleep Apnea Syndrome
睡眠中に呼吸が繰り返し止まり、血液中の酸素低下などを起こす病気
CPAP 持続陽圧呼吸療法
Continuous Positive Airway Pressure
睡眠中に空気を送り、気道がふさがるのを防ぐ治療
NDB レセプト情報・特定健診等情報データベース 日本の保険診療の情報を全国規模で集めたデータベース
HR ハザード比
Hazard Ratio
追跡期間中の各時点における発症の起こりやすさを比べる指標。発症率そのものではありません
CI 信頼区間
Confidence Interval
推定値が含まれると考えられる範囲。通常は95%信頼区間が使われます
睡眠効率 床に入っていた時間のうち、実際に眠っていた時間の割合
アクチグラフィ 手首に装着し、体の動きから睡眠・覚醒を推定する機器

参考文献と監修

原著論文

Akada M, Nakanishi Y, Ideyama M, et al.
Sleep Disturbance as a Risk Factor for Retinal Neurodegeneration and Subsequent Glaucoma.
American Journal of Ophthalmology. 2025;280:193–202.
doi:10.1016/j.ajo.2025.08.019

本記事は、CC BY 4.0で公開されている上記原著論文の内容にもとづき、日本語化および一般向けの簡略化を行って作成しました。図表を掲載する場合の出典表記は「Akada M, et al. Am J Ophthalmol. 2025;280:193–202をもとに作成。原著はCC BY 4.0で公開。日本語化および簡略化を実施。」とします。

監修

医療法人 かとう内科 院長 加藤 丈陽
日本内科学会 総合内科専門医(029447)/日本神経学会 神経内科専門医・指導医/日本認知症学会 認知症専門医・指導医/日本老年医学会 老年病専門医

かとう内科
愛媛県今治市立花町1-10-5
TEL 0898-23-2310

この記事を最後に更新した日:2026年7月14日

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