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糖尿病と心臓・腎臓を守る——CKM症候群という新しい考え方
2026年の学会ステートメントと「CKM症候群」から、血糖だけでない糖尿病管理を解説します
2026.08.01 更新
「糖尿病の治療=血糖値を下げること」と思われがちですが、近年は考え方が大きく変わってきました。糖尿病は、心臓・腎臓・血管とも深くつながっていて、血糖だけでなく、これらをまとめて守っていくことが、将来の心筋梗塞・脳卒中・心不全を防ぐカギだと分かってきたのです。この記事では、2026年に改訂された学会の合同ステートメントや、近年注目されている「CKM症候群」という考え方をもとに、糖尿病と心臓・腎臓の関係を、やさしく解説します。
糖尿病では、血糖値だけでなく心臓・血管・腎臓を守る治療が大切です
糖尿病の治療というと、血糖値やHbA1cを下げることを思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろんそれも大切ですが、今は血糖だけでなく、高血圧・脂質異常症・慢性腎臓病(CKD)・肥満・心不全・動脈硬化などを、まとめて評価して管理していくという考え方が主流になっています。
2026年には、日本循環器学会と日本糖尿病学会が、6年ぶりに合同のステートメント(専門家が現時点の見解を合意としてまとめた文書)を改訂しました。ここでも、糖尿病と心臓・血管の病気を「一体のもの」として考えることの大切さが、あらためて強調されています。糖尿病がリスクとなる循環器の病気として、動脈硬化による心臓・血管の病気、心不全、不整脈(心房細動)などが取り上げられています。
注目されるキーワード「CKM症候群」とは?
「CKM症候群」は、米国心臓協会(AHA)が2023年に提唱し、2026年の日本循環器学会・日本糖尿病学会の合同ステートメントでも重視されている考え方です。正式には心血管(Cardiovascular)・腎臓(Kidney)・代謝(Metabolic)の頭文字をとったもので、患者さんの言葉でいえば、心臓や血管・腎臓・糖尿病や肥満などの代謝を、ひとつのつながりとして考える概念です。
なぜ「まとめて」考えるのか
糖尿病・肥満・高血圧・腎臓の働きの低下・心臓の病気は、それぞれ別々に起きるのではなく、お互いに影響し合いながら、少しずつ進んでいきます。たとえば、糖尿病や肥満は腎臓に負担をかけ、腎臓の働きが落ちると心臓にも負担がかかり…というように、鎖のようにつながっています。だからこそ、ひとつの数字だけを見るのではなく、全体を見渡して管理することが、将来の重い病気を防ぐことにつながるのです。
CKMの視点で一緒に確認したい項目
CKM症候群の考え方では、次のような項目を、それぞれ別々にではなく、つながりとして確認していきます。
| 項目 | 主に確認するもの | なぜ大切か |
|---|---|---|
| 血糖 | 血糖値・HbA1c | 糖尿病の状態と治療効果を確認 |
| 血圧 | 診察室血圧・家庭血圧 | 心筋梗塞、脳卒中、腎機能低下の予防 |
| 脂質 | LDLコレステロール・中性脂肪など | 動脈硬化リスクを評価 |
| 腎臓 | eGFR・尿アルブミン/尿蛋白 | 腎機能低下と全身の血管障害を早めに把握 |
| 体重・肥満 | 体重・BMI・必要に応じて腹囲 | 糖尿病、高血圧、脂肪肝などとの関連を確認 |
| 心臓・血管 | 症状・心電図・必要に応じて頸動脈エコーなど | 心不全、不整脈、動脈硬化の兆候を確認 |
すべての検査を全員に一律に行うわけではありません。年齢、糖尿病の期間、症状、合併症などに応じて必要な項目を選びます。
研究のうごき ― 炎症をねらった新しい薬の試験(ZEUS試験)2026年8月 追記
CKM症候群の背景には、動脈硬化を進める「体の中の慢性的な炎症」が関わっていると考えられています。そこで、炎症そのものをねらう薬で心筋梗塞や脳卒中を減らせないか、という研究が進んでいます。2026年7月末、その一つであるIL-6を標的とする抗体薬「ziltivekimab(ジルチベキマブ)」の第3相試験(ZEUS試験)の速報が、開発企業から発表されました。対象となったのは、CKM症候群の中でも、動脈硬化性心血管病(ASCVD)・慢性腎臓病(CKD)・炎症を併せ持つ、特に心血管リスクの高い方々です。
ZEUS試験の概要
ASCVD・CKD・炎症(hsCRP 2mg/L以上)を併せ持つ6,300人超を対象に、ziltivekimab(月1回の皮下注射)を標準治療へ上乗せし、プラセボ(偽薬)と比べた二重盲検の試験です。いちばん知りたい結果(主要評価項目)は、3-point MACE=心血管による死亡・非致死性の心筋梗塞・非致死性の脳卒中を、どれだけ減らせるかでした。
ZEUS試験のトップライン(速報)結果
出典:Novo Nordisk「ZEUS phase 3 trial」トップライン発表(2026年7月31日)。ハザード比が0.99で、信頼区間が1をまたいでいることは「差が示されなかった」ことを意味します。
ここから受け取れる大切な教訓は、「検査値・バイオマーカーが良くなること」と「実際に心筋梗塞や脳卒中が減ること」は、必ずしも同じではないということです。だからこそ、実際の病気の発症を確かめる大きな試験が必要になります。CKM症候群の管理でいま確実なのは、血糖・血圧・脂質を整え、腎臓や心臓を守る効果が確かめられている治療を、着実に続けていくことです。炎症をねらう治療は、今後の研究の結果を待つ段階です(心不全のHERMES試験、心筋梗塞後のARTEMIS試験が継続中で、2027年前半に結果が見込まれています)。
当院での取り組み
かとう内科では、血糖の管理はもちろん、血圧・脂質・腎機能・体重もあわせて確認しています。腎臓については、血液検査のeGFR(腎臓の働きの指標)だけでなく、必要に応じて尿アルブミンや尿蛋白も確認します。さらに、必要に応じて心電図や頸動脈エコーで心臓や血管の状態も調べながら、将来の血管の病気を防ぐことを意識して診療しています。血糖値の数字だけを追いかけるのではなく、「心臓・腎臓・血管をまとめて守る」という視点を大切にしています。
また、当院は糖尿病に加えて、神経内科・老年病を専門とする院長が診療し、睡眠時無呼吸の検査・治療にも対応しています。糖尿病を、血糖だけでなく、神経・睡眠・加齢による変化まで含めて、横断的に診られることが強みです。
こんなときは、循環器の専門医との連携も考えます
- お薬を使っても血圧がなかなか下がらないとき
- 胸の痛みや圧迫感、動悸、脈の乱れがあるとき
- 階段や坂道で息切れがする、足のむくみが続くとき
こうしたサインは、心臓や血管からの大切な知らせのことがあります。気になる症状がある方は、遠慮なくご相談ください。必要に応じて、専門の医療機関と連携して対応します。
まとめ
糖尿病をお持ちの方にとって大切なのは、血糖・血圧・コレステロール・腎機能・体重を、それぞれ別々に考えるのではなく、「心臓・腎臓・血管を含む全身を守る」というひとつの目標のもとに、まとめて管理していくことです。「CKM症候群」という考え方も、まさにこの「つながりを大切にする」という方向を示しています。新しい薬の研究も進んでいますが、検査値の改善がそのまま病気の予防につながるとは限らないため、確かめられた治療を着実に続けることが基本です。健診で複数の項目を指摘された方、糖尿病と一緒に血圧やコレステロールも気になる方は、どうぞお気軽にご相談ください。
