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マンジャロの次へ?三重作動薬「レタトルチド」とは
Lancetで注目された次世代の糖尿病・肥満治療薬を、医師がやさしく解説
体重が最大で約15%減った──そんな試験結果が、2026年6月、世界的な医学雑誌Lancetに掲載されました。「マンジャロやウゴービの次は、どんな薬が出るの?」と外来で聞かれることも増えていますが、いま注目されているのが三重作動薬(トリプルアゴニスト)と呼ばれる新しいタイプの薬「レタトルチド(retatrutide)」です。ただし、これはまだ開発段階の薬で、日本では使えません。今回は、何が分かったのか、そして「いま言えること・まだ言えないこと」を落ち着いて整理します。
「三重作動薬」とは ― GLP-1の次の考え方
近年の糖尿病・肥満症の治療薬は、体の中のホルモンの働きを利用してきました。まずGLP-1に作用する薬(セマグルチドなど)が広まり、次にGLP-1とGIPの二つに作用する薬(チルゼパチド=マンジャロ/ゼップバウンド)が登場しました。
レタトルチドは、ここにもう一つグルカゴンという働きを加えた、GIP・GLP-1・グルカゴンの三つに同時に作用する薬です。「三重作動薬」「トリプルアゴニスト」と呼ばれるのはこのためです。食欲を抑えたり、血糖を調整したりするだけでなく、エネルギーの消費にも関わると考えられており、これまでより大きな効果が期待されています。
| 薬(代表的な商品名) | 作用するホルモン | 日本で 使用可能 |
|---|---|---|
| オゼンピック・ウゴービ (セマグルチド) |
GLP-1 | ○ |
| マンジャロ・ゼップバウンド (チルゼパチド) |
GLP-1+GIP | ○ |
| レタトルチド | GLP-1+GIP+グルカゴン | × (開発中) |
作用するホルモンが一つずつ増えてきた流れがわかります。レタトルチドは三つ同時に作用する点が新しさです。
なお、GLP-1の仲間には、注射ではなく飲むタイプ(オルフォルグリプロン)も登場しています。新しい薬の開発は、効果の大きさだけでなく「使いやすさ」の面でも進んでいます。
Lancetに載った試験(TRANSCEND-T2D-1)
今回発表されたのは、食事・運動療法だけでは血糖が十分に下がらない2型糖尿病の方を対象に、レタトルチド単剤の効果を調べた40週間の試験です。米国・メキシコ・インドの施設で行われ、537人が、レタトルチド(4mg・9mg・12mg)または偽薬(プラセボ)のいずれかを、週1回の注射で使いました。
| 40週後の変化 | レタトルチド (最高用量12mg) |
プラセボ |
|---|---|---|
| HbA1cの変化 | -1.94% | -0.81% |
| 体重の変化(率) | -15.3% | -2.6% |
最高用量12mg群の主な結果。4mg・9mg群でも、用量に応じてHbA1c(-1.69~-1.86%)・体重(-11.5~-13.9%)が改善しました。HbA1cはいずれの用量でもプラセボより有意に低下しています(p<0.0001)。
注目すべきは、これがほかの薬を使わず、レタトルチド1剤だけでの結果だということです。HbA1cが約2%下がり、体重も最大で15%ほど減少したのは、数字としては非常に大きいといえます。
数字の受け止め方 ― ここが大切です
ただし、この結果をそのまま「自分にも同じ効果がある」と読むのは早計です。今回の試験に参加したのは、次のような特徴を持つ方々でした。
試験に参加した方の特徴
・まだ糖尿病のお薬を使っていない方が中心(食事・運動療法のみの段階)
・糖尿病と診断されてからの期間が平均2.5年と比較的早い段階
・平均BMIが約36と高度の肥満を伴う方が多かった
つまり、これは「治療のごく初期で、減量の余地も大きい方々」での結果です。すでにメトホルミンやSGLT2阻害薬、インスリンなどで治療を続けている一般的な患者さんの場合、同じように下がるとは限りません。実際の診療では、一人ひとりの状況によって効果の出方は変わります。「薬を使っていない方での試験結果」という前提は、ぜひ覚えておいてください。
安全性について
レタトルチドで最も多かった副作用は、これまでのGLP-1関連薬と同じく吐き気や下痢などの消化器症状で、多くは軽度~中等度、時間とともに和らいでいきました。副作用による中止は2~5%程度で、重い低血糖は報告されませんでした。試験中に2例の死亡(4mg群)がありましたが、いずれも治験薬とは関係がないと判断されています。
日本ではまだ使えません
現時点(2026年)の状況
レタトルチドはまだ開発段階の薬で、日本でも米国でも承認されていません。今すぐ処方できる薬ではなく、承認されるとしても数年先になる見込みです。インターネットやSNSを通じた個人輸入・購入は、品質や安全性が保証されず、思わぬ健康被害につながるおそれがあるため、絶対におすすめできません。
現在、日本で使用できる薬
同じGLP-1の仲間でも、すでに日本で使える薬があります。「新しい薬を待つ」よりも、いま使える薬の中からご自身に合うものを選ぶことが、現実的で確実な一歩になります。
「いま使える薬」と「まだの薬」
・使用可能:オゼンピック、ウゴービ(セマグルチド)/マンジャロ、ゼップバウンド(チルゼパチド)
・まだ使えない:レタトルチド(開発段階)
当院の考え方
「いま」と「これから」を分けて考える
新しい薬の情報は希望につながる一方で、期待だけが先走ってしまうこともあります。当院では、いまある治療(食事・運動・現在使えるお薬)で着実に血糖と体重を整えることを大切にしながら、新しい治療の動きも引き続き追いかけてまいります。レタトルチドのように将来の選択肢になりうる薬は、日本で使えるようになった段階で、あらためてご案内します。
レタトルチドは、今後の糖尿病・肥満症の治療を大きく変える可能性を秘めています。ただし現時点では開発段階であり、日本ではまだ使用できません。当院では最新のエビデンスを確認しながら、新しい情報が分かりしだい、患者さんに分かりやすい形でこのブログでお伝えしていきます。
よくあるご質問
マンジャロより効く薬なのですか?
レタトルチドとマンジャロ(チルゼパチド)を、同じ条件で直接比べた試験はまだ十分ではありません。今回の試験はあくまで「薬を使っていない方で、レタトルチド単剤と偽薬を比べた」ものです。作用するホルモンの数は多いものの、「どちらが優れているか」を今の段階で言い切ることはできません。
いつから日本で使えますか?
現時点では未定です。レタトルチドは開発段階で、日本でも米国でも承認されていません。承認には今後の試験結果と審査が必要で、使えるようになるとしても数年先になる見込みです。確実なことが分かりしだい、ご案内します。
いま私にできることはありますか?
あります。新しい薬を待つよりも、いまできる治療を着実に続けることが、将来の合併症予防にいちばんつながります。食事・運動の見直し、現在使えるお薬の調整、体重・血圧・脂質をまとめて整えることなど、当院で一緒に取り組めることはたくさんあります。気になる点があれば、診察の際にお気軽にご相談ください。
【追記】第3相試験の速報が発表されました
2026年7月、レタトルチドの第3相試験であるTRIUMPH-2(2型糖尿病を伴う肥満・過体重)とTRIUMPH-3(重度肥満+心血管疾患)の企業速報が公表されました。対象・結果・副作用・心血管イベントの読み方については、こちらで詳しく整理しています。
→ レタトルチド第3相TRIUMPH-2・3——糖尿病・重度肥満で何が分かった?
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日本内科学会 総合内科専門医(029447)/日本神経学会 神経内科専門医(第5474号)・神経内科指導医(第3843号)/日本認知症学会 認知症専門医・指導医/日本老年医学会 老年病専門医
かとう内科 〒794-0821 愛媛県今治市立花町1-10-5 TEL 0898-23-2310(1986年開業・19床)
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の医薬品の使用を勧めるものではありません。レタトルチドは開発段階の医薬品であり、日本では承認・販売されていません(2026年時点)。
参考:Bajaj HS, et al. Efficacy and safety of retatrutide ... in people with type 2 diabetes (TRANSCEND-T2D-1): a double-blind, randomised, phase 3 trial. Lancet. 2026;407(10546):2402-2413./ClinicalTrials.gov NCT06354660/開発・資金:Eli Lilly and Company。
