「体重」「血糖」「いびき(睡眠時無呼吸)」を、それぞれ別の悩みとして抱えていませんか。実はこの三つは、肥満を通じて深くつながっています。2026年5月、肥満症の治療薬として使われてきたゼップバウンド(一般名:チルゼパチド)が、BMI 27kg/m²以上の中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)に対する治療選択肢として、効能追加承認されました。今回は、この承認が何を意味するのか、そして実際に使うにはどんな条件があるのかを、内科医の視点でできるだけ冷静にお伝えします。
1.肥満と睡眠時無呼吸は、切り離せない関係です
閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間にのどの奥の空気の通り道(上気道)が繰り返し狭くなったりふさがったりして、呼吸が何度も止まったり浅くなったりする病気です。日中の強い眠気や集中力の低下だけでなく、高血圧・2型糖尿病・心房細動・心不全・脳卒中などのリスクを高めることが知られています。
そして、この病気の大きな原因のひとつが肥満です。体重が増えると、舌やのどの周りにも脂肪がつき、空気の通り道が狭くなります。つまり、体重を減らすこと自体が、睡眠時無呼吸の改善につながりうるのです。今回の承認は、まさにこの「体重を減らして呼吸を楽にする」という考え方に基づいています。
2.ゼップバウンドとは、どんな薬でしょうか
ゼップバウンドは、GIPとGLP-1という二つのホルモンの受容体に同時に働きかける、週1回注射のお薬です(有効成分はチルゼパチド)。脳に働いて食欲を抑え、強い体重減少効果を示すことから、もともとは肥満症の治療薬として、また同じ成分の「マンジャロ」は2型糖尿病の治療薬として使われてきました。
今回はそこに、「中等症以上の睡眠時無呼吸症候群」という効能が新しく加わりました。ただし、すべての方が対象になるわけではなく、BMIが27以上に該当する場合に限るという条件がついています。
3.臨床試験で分かったこと(SURMOUNT-OSA試験)
今回の承認は、肥満を伴う中等症~重症の睡眠時無呼吸症候群の患者さんを対象にした国際共同試験(SURMOUNT-OSA試験)の結果に基づいています。この試験は、CPAP(持続的に気道へ空気を送る装置)を使っていない方のグループと、使っている方のグループに分けて行われました。睡眠中に呼吸が乱れる回数を示すAHI(無呼吸低呼吸指数)という指標で、52週後の変化を比べています。
| 項目(52週後) | プラセボ (偽薬) |
ゼップバウンド |
|---|---|---|
| AHIの変化 ※CPAP不使用群 |
-4.2/時 | -28.1/時 |
| AHIが半分以下に改善した人 | 18.3% | 65.6% |
| 軽症域まで改善した人 (症状の改善を含む) |
13.4% | 40.6% |
| 体重の変化(率) | -1.6% | -18.7% |
SURMOUNT-OSA試験(CPAP不使用群)の主な結果。CPAP使用群でも同様に、AHIの大きな低下と平均約20%の体重減少が報告されています。
偽薬と比べて、呼吸の乱れ(AHI)が大きく減り、体重も平均で18~20%ほど減少しました。中には、睡眠時無呼吸が軽症の範囲まで改善した方も4割前後いました。体重を落とすことが呼吸の改善に直結することを、はっきり示したデータだと言えます。
CPAP治療中の方で体重や睡眠時無呼吸が改善した場合でも、自己判断でCPAPを中止することはできません。治療効果は、症状の感じ方だけでなく、睡眠検査の結果や主治医の判断に基づいて確認する必要があります。「ゼップバウンドが出たからCPAPは不要」というものではない、という点はぜひ覚えておいてください。
4.「誰でも使える薬」ではありません ― 注意すべき点
数字だけを見ると非常に魅力的ですが、ここは冷静にお伝えしたい部分です。この試験では、ゼップバウンドを使った方に消化器系の副作用が多く見られました。
- 下痢(約4人に1人)、吐き気(約4人に1人)
- 嘔吐・便秘(それぞれ6人に1人前後)
多くは軽度~中等度ですが、続けるのがつらく感じる方もいます。注射のお薬であること、少量から数か月かけて増やしていく必要があること、そして費用面も含めて、「効くかどうか」だけでなく「無理なく続けられるかどうか」が実際にはとても大切になります。
5.使える条件は、かなり厳格に決められています
この薬は、誰でもダイエット目的で使えるものではありません。国(厚生労働省)の最適使用推進ガイドラインによって、使える患者さんの条件と、処方できる医療機関の条件の両方が、かなり厳しく定められています。
患者さん側の主な条件
- 専門的な睡眠検査(PSG)でAHIが15以上(簡易検査ではREIが30以上)の中等症以上の睡眠時無呼吸であること
- BMIが27kg/m²以上が条件です。ただし、BMI 27以上30未満の方については、睡眠時無呼吸の重症度や合併症、これまでの生活習慣療法の経過などを含めて、より慎重に適応を判断する必要があります。
- 食事・運動療法を3か月以上きちんと行っても、体重が十分に減らないこと。その間に、管理栄養士による栄養指導を1回以上受けていること
- 初診当日にすぐ開始する薬ではありません。まずは食事療法・運動療法を行い、その経過を確認したうえで検討される治療です
医療機関側の主な条件
処方する施設にも、循環器・呼吸器・耳鼻咽喉科などの専門医と、糖尿病・内分泌の専門医を両分野からそろえる体制、関連学会の教育研修施設としての認定、常勤の管理栄養士による栄養指導体制など、多くの要件が課されています。これは、新しい作用の薬を安全に使い、副作用にもきちんと対応できる施設に限って使うための仕組みです。
ガイドラインでは、睡眠時無呼吸や肥満症の治療以外の目的(美容・ダイエット)で使うことは明確に禁じられています。SNSなどで見かける安易な「痩せ薬」としての入手・使用は、思わぬ健康被害につながるおそれがあり、おすすめできません。
6.当院でできること ― 入口としての役割
上記のとおり、ゼップバウンドによる睡眠時無呼吸の治療そのものは、厳しい施設要件を満たす医療機関で行うことになります。当院の役割は、その「入口」です。
当院で睡眠時無呼吸症候群の検査や生活習慣病の評価を行い、適応の可能性を確認したうえで、必要に応じて処方要件を満たす専門医療機関への紹介を検討します。あわせて、肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常症をまとめて確認し、まずは生活習慣の見直しから一緒に取り組みます。
「いびきを指摘される」「日中に強い眠気がある」「健診で体重や血糖、血圧を指摘された」――そうした気がかりは、別々ではなく一つの流れとしてつながっていることが少なくありません。いびき・睡眠時無呼吸、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症は別々の問題ではなく、まとめて評価することが大切です。まずは今治市のかとう内科で、ご自身の状態を確認するところから始めていただければと思います。
【追記】睡眠時無呼吸でも開発が進む「レタトルチド」
レタトルチドは、閉塞性睡眠時無呼吸を対象とした第3相試験も進められています。2026年7月には、糖尿病合併例と重度肥満+心血管疾患を対象とした2試験の速報が発表されました。睡眠時無呼吸に対する結果は今回の2試験とは別のもので、当院での診療方針が変わるものではありません。
→ レタトルチド第3相TRIUMPH-2・3——糖尿病・重度肥満で何が分かった?
- PMDA(医薬品医療機器総合機構):ゼップバウンド 最適使用推進ガイドライン(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)
- 田辺ファーマ/日本イーライリリー:ゼップバウンドの効能追加承認に関する発表(2026年)
- SURMOUNT-OSA試験(New England Journal of Medicine 掲載)
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2026.08.04 更新(新しい情報が入りしだい、随時見直しています)
