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高血圧の目標は130/80未満へ ― でも、薬を増やす前に確認したいこと

JSH2025で変わったこと・変わっていないこと、家庭血圧と"下げ方"の話

高血圧 JSH2025 2026年6月(2026年8月 海外データ追記)

2025年8月、日本高血圧学会が6年ぶりに「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」を改訂しました。よく見出しになる「目標は130/80未満へ」という言葉。ただ、ここで知っておいてほしいのは、「目標」と「診断の基準」は別物だということ、そして血圧は“低ければ低いほどよい”わけでもない、ということです。今回は、患者さんの立場で押さえておきたいポイントを整理します。

変わったのは「目標」― 全年齢で130/80未満に統一

これまでは年齢や持病によって降圧の目標値がいくつにも分かれていて、「自分はどの数字を目指せばいいのか」が分かりにくいものでした。JSH2025では、ここが原則ひとつにまとめられました。

130/80未満
診察室で測る血圧の目標
125/75未満
家庭で測る血圧の目標

若い方も、ご高齢の方も、合併症のある方も、まず目指す方向は同じ。シンプルになったぶん、医療者と患者さんが同じゴールを共有しやすくなりました。背景には、130~139/80~89mmHgという“少し高め”の段階でも、脳卒中や心筋梗塞のリスクが積み上がっていく、という研究の蓄積があります。

変わっていないのは「診断基準」― ここを混同しないで

ここがいちばん誤解されやすいところです。「目標が130/80になった」と聞くと、「130を超えたらもう高血圧で薬?」と心配される方がいますが、そうではありません。高血圧かどうかを判断する“診断の線”は、これまでどおり据え置きです。

治療で目指す「目標」
診察室 130/80未満
家庭 125/75未満
下げていきたいゴール
高血圧と判断する「基準」
診察室 140/90以上
家庭 135/85以上
据え置き(変更なし)

つまり「目標(目指す値)」と「基準(高血圧と診断する値)」は別。130台だからといって、すぐ薬が必要になるわけではありません。まずは生活習慣の見直しと家庭血圧の記録から、というのが基本の順番です。

健診の「160/100」にも注意 健診で受診をすすめられる目安が160/100以上とされることがありますが、これは「最低限ここは医療につなげましょう」という線であって、診断基準ではありません。「150/95」だったから大丈夫、ではなく、140/90を超えていれば一度ご相談ください。

海外の参考データ ― 米国の「血圧治療ギャップ」2026年8月 追記

「130/80以上なら全員が薬なの?」という不安に対して、海外からも参考になる推計が出ました。2026年7月末、米国心臓協会(AHA)が、2025年の米国高血圧ガイドラインを米国の人口に当てはめた研究を紹介しています(論文は Journal of the American Heart Association)。日本の基準とは別の話ですが、「血圧の値だけで薬が決まるわけではない」ことを、数字でわかりやすく示しています。

どんな研究か

米国の健康調査(NHANES 2009~2018年)のデータをもとにした、観察データとモデルによる推計です。ランダム化した試験ではありません。血圧の値だけでなく、糖尿病・慢性腎臓病(CKD)・心血管病の既往・10年間のリスク推計などを合わせて、「薬物療法の対象になるのは誰か」を見積もっています。

米国成人でみた「対象」と「実際の治療」(推計)

高血圧で心血管病の既往がない米国成人:約8,100万人(100%)
ガイドライン・リスク評価に基づき薬物療法の対象と推計:約2,280万人(全体の約28%)
対象約2,280万人の内訳 ― 治療中:約1,310万人(57%)/未治療:約970万人(43%)
治療中 約1,310万人(57%)未治療 約970万人(43%)

図:Population-Level 10-Year Implications of the New 2025 ACC/AHA High Blood Pressure Guideline(JAHA/AHA Newsroom, 2026年7月29日)より作成。上2段は約8,100万人を基準とした比例、最下段は対象2,280万人の内訳としての比例です。いずれも米国のガイドラインと人口に基づく推計値です。

ポイントは、高血圧のある人のうち、薬物療法の対象と推計されたのは約28%(およそ3~4人に1人)にとどまる、ということです。つまり「血圧が基準を超えている=全員が薬」ではありません。研究では、対象となる人で降圧薬治療が未治療に比べて全死亡リスク23%低下・心血管関連死亡リスク50%低下と関連し、最も利益が大きいと推計された群は平均66歳で糖尿病やCKDの併存が多い、とも報告されています。

日本にそのまま当てはめないでください これは米国のガイドライン・リスク式・人口構成に基づく推計で、血圧も1回の受診時測定が使われています(本来は複数回・複数受診での確認が必要)。数字を日本の治療基準に置き換えることはできません。日本では前述のとおり、診断基準は140/90(家庭135/85)で据え置き。海外データは「値だけで薬が決まるのではなく、持病やリスクを含めて考える」という考え方の裏づけとして読むのが適切です。

いちばん大事なのは「下げ方」― 数字を押し込まない

JSH2025は「目標を下げた」ことばかりが注目されますが、本文では“どう安全に下げるか”がていねいに書かれています。降圧を進めるときには、めまい・立ちくらみ・症候性の低血圧、腎機能の急な悪化、血液中のカリウムの上昇などに気をつけながら、ひとりひとりに合わせて調整していく、という考え方です。

とくに慎重にいきたい方

  • ご高齢の方(急に強く下げると、ふらつき・転倒・骨折につながることがあります)
  • 腎臓の働きが下がっている方
  • 夏場や、食欲・水分が落ちて脱水ぎみのとき
  • 立ち上がったときにクラッとしやすい方
「速く・強く」は禁物 数字を急いで押し込むより、体調を見ながら少しずつ。お薬を始めたり増やしたりした後で、ふらつき・だるさ・食欲低下などがあれば、がまんせず遠慮なくお知らせください。目標は“その人にとって安全に到達できる範囲”で調整します。

家庭血圧が、いちばんの味方

JSH2025では、家庭での血圧測定がこれまで以上に重視されています。病院だと緊張で高く出る「白衣高血圧」、逆に病院では正常でも家では高い「仮面高血圧」があり、ふだんの本当の血圧は家庭での記録のほうが正確に映し出してくれるからです。お薬が効いているかどうかも、家庭血圧で判断するのが基本になりました。

測り方のコツ 朝は起きて1時間以内・トイレのあと・朝食と服薬の前に。座って1~2分おいてから測ります。1回ごとの上下に一喜一憂せず、毎日の平均を見るのが大切。上腕で測るタイプの血圧計がおすすめです。

薬を増やす前に、見直せること

降圧の土台は、いつの時代も生活習慣です。JSH2025も「知識」より「続けられる行動」を重視する方針に変わりました。

  • 減塩は1日6g未満を目安に(めん類の汁を残す、加工食品を控える)
  • カリウムを増やす(野菜・果物)。ただし腎臓の働きが下がっている方、カリウムが高い方、一部の降圧薬を使っている方は高カリウム血症に注意が必要なので、まずご相談を
  • 適正体重・運動・節酒・禁煙
  • いびきや日中の強い眠気がある方は、睡眠時無呼吸が血圧に隠れて関わっていることがあります

そのうえで必要なら、お薬を組み合わせます。今回の改訂では、選べる薬の位置づけも一部見直され(β遮断薬の見直しなど)、血圧管理に使える治療用アプリにも触れられています。どの方法が合うかは、合併症や体質によって変わります。

まとめ ― 数字を追わない、でも軽く見ない

JSH2025のメッセージを患者さんの言葉に置きかえると、「目標は130/80未満。でも、急いで押し込むものではなく、家庭血圧と体調を見ながら、自分に合ったペースで」ということになります。そして高血圧は単独の問題ではなく、糖尿病や脂質異常症と重なって血管に負担をかけます。気になる数字があれば、家庭血圧の記録を持って受診していただくのがいちばんの近道です。

▶ 高血圧をもっと詳しく(専門医のまるわかり連載・全16回)

▶ 糖尿病もお持ちの方へ(糖尿病ガイド)

出典:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」(2025年8月発行)。/米国データ:Population-Level 10-Year Implications of the New 2025 ACC/AHA High Blood Pressure Guideline. Journal of the American Heart Association. DOI: 10.1161/JAHA.125.048616/American Heart Association Newsroom, July 29, 2026.
※本記事は一般的な医療情報の解説です。診断や治療の最終判断は、必ずかかりつけ医にご相談ください。最終更新:2026年8月1日(米国の人口推計を追記)。
監修
加藤 丈陽(かとう内科 院長)
日本内科学会 総合内科専門医(029447)/日本神経学会 神経内科専門医(第5474号)・神経内科指導医(第3843号)/日本認知症学会 認知症専門医・指導医/日本老年医学会 老年病専門医
かとう内科 〒794-0821 愛媛県今治市立花町1-10-5 TEL 0898-23-2310

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