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  • HDL(善玉コレステロール)は高いほど良い?U字型リスクを専門医が解説|かとう内科

善玉HDLコレステロールは高いほど良いのか?

「低いと悪い」は本当でも「高いほど良い」は誤解。U字型リスクとCETP阻害薬を専門医が解説します。

 
🩸 脂質異常症シリーズ 第2回

善玉「HDLコレステロール」は
高いほど良いのか?
──"善玉だから安心"という思い込みを専門医が検証する

健診で「HDL(善玉)が高めですね、良いですね」と言われると、つい安心しがちです。たしかにHDLが低いことはリスクですが、では“高ければ高いほど健康”なのでしょうか。実はこの問いには、世界の大規模研究と、次々に開発中止になった「HDLを上げる薬」の歴史が深く関わっています。この記事では、善玉という呼び名の落とし穴を、エビデンスにもとづいて整理します。

この記事で答えること

HDL(善玉)コレステロールは、高ければ高いほど健康に良いのですか? 薬で上げれば心臓を守れますか?

🔑 まずここだけ押さえる
  • HDLは「善玉」と呼ばれますが、高ければ高いほど良い、というわけではありません。
  • 極端に高いHDLは、むしろ死亡リスクの上昇と関連することが大規模研究で示されています(U字型の関係)。
  • 「HDLを薬で上げて心臓病を防ぐ」試みは、これまでことごとく失敗してきました。
  • 大切なのはHDLの“量”より“質(はたらき)”。そして治療の本筋は、あくまでLDL(悪玉)を下げることです。
  • HDLが低い方は、運動・禁煙・減量が改善の王道です。

1「善玉」という呼び名の落とし穴

結論から言えば、HDLは高ければ高いほど健康に良い、というわけではありません。

HDLコレステロールが「善玉」と呼ばれるのは、血管の壁にたまった余分なコレステロールを回収し、肝臓へ運び戻すはたらき(これを「コレステロールの逆転送」といいます)を担っているからです。実際、HDLが低い人は心筋梗塞や脳梗塞が多い、という関係は古くから知られています。だからこそ脂質異常症の診断基準でも、HDL40mg/dL未満が「低HDLコレステロール血症」とされています。

📑 低HDLがリスクである根拠:日本人を対象とした大規模追跡研究(JPHC研究)では、HDLが最も低いグループは、冠動脈疾患のリスクが男性で約3.8倍・女性で約2.6倍に高まりました。また別の日本人の研究では、HDLが30mg/dL未満の人は60mg/dL以上の人にくらべ、脳卒中の発症リスクが約3倍だったと報告されています。「HDLが低いと血管の病気が増える」という関係自体は、しっかりしたデータで裏づけられています。

ところが「低いと悪い」が成り立つからといって、「高いほど良い」が成り立つとは限りません。ここが脂質の数値を読むうえで、もっとも誤解されやすいポイントです。

2HDLは高すぎても良くない──U字型のリスク

近年の大規模な疫学研究で、HDLと死亡リスクの関係は、右肩下がりの直線ではなく「U字型」になることがわかってきました。つまり、HDLが低すぎても、逆に極端に高すぎても、死亡リスクが上がるという形です。デンマーク・コペンハーゲンで10万人以上を最大23年間追跡した研究では、HDLと心血管疾患による死亡・総死亡のいずれもがこのU字型を描き、リスクがもっとも低いのは“ほどほど”の範囲であることが示されました。同じ傾向は日本人を含む複数の研究でも繰り返し報告されています。

📊 HDLと死亡リスクの関係(イメージ)
 
 
 
 
 
とても低い低めほどほど高めとても高い
※ 棒が高いほど死亡リスクが高いことを表すイメージ図です(コペンハーゲンの10万人規模研究をもとに作図)。実際の数値は研究によって異なりますが、低すぎても高すぎてもリスクが上がる「U字型」の関係が一貫して示されています。

とくに注目されているのが、HDLが極端に高い領域です。アジア地域の大規模な解析では、HDLが非常に高いグループ(男性でおよそ116mg/dL以上、女性で135mg/dL以上)は、心血管疾患のリスクがそれぞれ約2.0倍・約1.7倍に上がっていました。日本人のコホート研究でも、HDLが極端に高い群で冠動脈疾患のリスクが高いことが報告されています。一般には「善玉が多くて理想的」と思われがちですが、必ずしもそうとは言えないのです。

なぜでしょうか。HDLが極端に高い場合、その背景に、HDLの代謝にかかわる遺伝的な体質(たとえばCETPという酵素の欠損など)が隠れていることがあります。日本人のCETP欠損症ではHDLが100mg/dLを超えることもありますが、この体質と長寿とは関係がなかったと報告されています。つまり、数字としてのHDLが高くても、それが「血管を守る力が強い状態」を意味するとは限らないのです。

誤解のないよう補足すると、健診でHDLが「やや高め」と出る程度であれば、過度に心配する必要はありません。問題になるのは、あくまで極端に高い場合です。

3「HDLを薬で上げれば心臓を守れる」は本当か

「善玉が多いほど良いなら、薬で増やせば心筋梗塞を防げるはず」──この発想は、実は世界中の研究者が本気で挑み、そしてくり返し失敗してきた歴史があります。HDLという数値を読むうえで、この事実はとても示唆に富んでいます。

HDLを大きく上げたのに、心臓病は減らなかった

HDLを強力に上げる薬として「CETP阻害薬」という種類の薬が開発され、大規模な臨床試験が次々に行われました。ところが結果は厳しいものでした。

表:HDLを上げる薬の主な臨床試験とその結末
薬・治療 主な試験 結果
トルセトラピブ ILLUMINATE 死亡・心血管イベントが増加し中止
ダルセトラピブ dal-OUTCOMES 効果を示せず中止
エバセトラピブ ACCELERATE HDLを大きく上げたが効果なし
ナイアシン
(ビタミンB3)
AIM-HIGH
HPS2-THRIVE
HDLを上げてもイベント抑制効果なし・副作用増

これらの試験が伝えているのは、「HDLという数値を薬で押し上げても、それだけでは心臓病を防げない」という事実です。HDLが低い人にリスクが多いのは確かでも、HDLを“結果として”上げただけでは、血管を守る本来のはたらきまで取り戻せるとは限らない──そう考えられています。

📑 根拠:これらは2000年代後半から2010年代にかけて報告された国際的な大規模臨床試験です。HDLを上げる治療が心血管イベントを減らせなかったことから、「HDLコレステロールの値そのものを治療目標にはしない」という考え方が、現在のガイドラインの基本になっています。

4大切なのは"量"より"質"

では、なぜ「HDLが低い=リスク」なのに「上げても効かない」という、一見矛盾したことが起きるのでしょうか。近年の答えは、HDLは“量(数値)”より“質(はたらき)”が重要だというものです。

同じHDLの数値でも、コレステロールをしっかり回収できる“よく働くHDL”もあれば、数だけ多くてうまく機能しない“質の低いHDL”もあります。とくに、糖尿病・喫煙・慢性的な炎症などがあると、HDLの機能が落ちることが知られています。研究の世界では、この機能を「コレステロール引き抜き能(コレステロール・エフラックス)」という指標で測る試みも進んでいます。

つまり健診のHDLの数値は、あくまで“目安の一つ”。数字が高いことに安心しきるのではなく、喫煙や血糖など、HDLの質を落とす要因に目を向けることのほうが、ずっと大切なのです。

5失敗続きの薬に、新しい展開も

ここまで「HDLを上げる薬は失敗してきた」とお伝えしましたが、話には続きがあります。同じCETP阻害薬の仲間でも、「HDLを上げること」ではなく「LDL(悪玉)を下げること」を主役にした新しい薬(オビセトラピブ)が登場し、近年あらためて注目されています。

この薬は、これまで失敗してきた薬とは設計の狙いが異なり、悪玉であるLDLコレステロールを大きく下げることが大規模試験で示されました。2025~2026年にかけて欧州で承認に向けた審査が進んでいる段階です(※2026年6月時点で日本では未承認です)。心筋梗塞や脳梗塞を実際に減らせるかどうかを確かめる最終的な試験の結果は、これから出てくる予定です。

🧠 認知症との意外なつながり
この新しい薬の研究では、アルツハイマー病に関係する血液中の指標(リン酸化タウなど)が改善する可能性も報告され、注目を集めています。脳とコレステロール代謝の関係は、当院が力を入れる神経内科・認知症の分野とも重なる、これからの大きなテーマです。今後の研究の進展を見守る必要があります。

この一連の歴史が教えてくれるのは、結局のところ「血管を守るうえで確かなのは、善玉を増やすことより、悪玉(LDL)を下げること」だという、シンプルな原則です。

6では、私たちはどうすればいい?

ここまでの話を、毎日の行動に落とし込みます。

✅ HDLとの正しい付き合い方
  • HDLが「やや高め」なら──過度に心配しなくて大丈夫です。極端に高い(目安としておおむね100mg/dL超)場合のみ、一度ご相談ください。
  • HDLが「低い」なら──薬よりまず生活改善です。とくに有酸素運動・禁煙・適正体重への減量がHDLを上げ、質も高めます。
  • HDLの数値に安心しすぎない──善玉が高くても、LDL(悪玉)が高ければ動脈硬化は進みます。数値はセットで見ましょう。
  • 本丸はLDLを下げること──心筋梗塞・脳梗塞を防ぐうえで、もっとも確実なのはLDLコレステロールを適正に保つことです。

「善玉が高いから安心」と検査結果を見るのではなく、悪玉(LDL)・中性脂肪も含めて全体のバランスで読む。これが脂質の数値との正しい向き合い方です。次回は、もう一つの主役である中性脂肪(トリグリセライド)について詳しく見ていきます。

7糖尿病・高血圧がある方はとくに注意

糖尿病があると、HDLの数値が正常でも“質”が落ちやすいことが知られています。また高血圧と脂質異常が重なると、動脈硬化のリスクは相乗的に高まります。あわせて以下もご覧ください。

🩸 糖尿病について(解説一覧) →
糖尿病はHDLの"質"を低下させ、動脈硬化を加速させます。糖尿病シリーズ全15回でくわしく解説しています。
🫀 高血圧について(解説一覧) →
高血圧と脂質異常症が重なると、心筋梗塞・脳卒中のリスクが相乗的に高まります。
🩸 コレステロールについて(解説一覧) → 基準値・検査・薬・食事から、家族性高コレステロール血症(FH)まで。
監修
医療法人 かとう内科 院長 加藤 丈陽(たけあき)
日本内科学会 総合内科専門医(認定番号 029447)
日本神経学会 神経内科専門医(第5474号)・神経内科指導医(第3843号)
日本認知症学会 認知症専門医・指導医/日本老年医学会 老年病専門医
愛媛県今治市立花町1-10-5 TEL 0898-23-2310
参考文献
  1. 日本動脈硬化学会 編:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.日本動脈硬化学会,2022.
  2. 小倉正恒 編:新装改訂版 見直し!脂質異常症.日本医事新報社,2026.
  3. HDLコレステロールと死亡リスクのU字型関連(コペンハーゲン一般住民研究:Madsen CM, et al. Eur Heart J. 2017).
  4. 日本人における低HDLと冠動脈疾患・脳卒中リスク(JPHC研究ほか).
  5. CETP阻害薬およびナイアシンの心血管アウトカム試験(ILLUMINATE/dal-OUTCOMES/ACCELERATE/AIM-HIGH/HPS2-THRIVE 等).
📚 脂質異常症シリーズ
第1回:健康診断でコレステロールが高いと言われたら → 前の記事へ
第2回:善玉HDLは高いほど良い?(この記事)
第3回:コレステロールが高いと言われたら(血管を調べる検査)→ 次の記事へ

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