• トップ
  • ブログ
  • 高血圧と糖尿病・肥満・睡眠時無呼吸|年代別・妊娠・高齢者の降圧【今治・かとう内科】

他疾患やライフステージを考慮した高血圧治療

糖尿病・肥満・脂質異常症・睡眠時無呼吸から妊娠・高齢者まで「あなた仕様」の降圧

高血圧 合併症・ライフステージ別 かとう内科(愛媛県今治市)

高血圧はめったに「単独」では来ません。糖尿病・肥満・脂質異常症・睡眠時無呼吸・痛風…多くの病気と手をつなぎ、互いを悪くし合います。そのうえ、同じ「高血圧」でも子ども・働き盛り・妊娠を考える世代・高齢者で、目標も注意点もまるで変わります。この記事は、JSH2025の第10章にもとづき、「あなたの背景に合わせた高血圧の考え方」を、糖尿病から高齢者のフレイルまで網羅的に解説します。J-DOIT3・INTERHEART・J-SMART・SPRINT・ESPRITといった具体的な研究と、CQ12~14のフォレストプロット(メタ解析の図)まで再現してお見せする、ネット上では類を見ない深さの内容です。

この記事でわかること
  • 糖尿病:目標は130/80(家庭125/75)。薬はRA系もCa拮抗薬も同等(CQ12・CQ13)
  • 肥満:3%の減量で有意に血圧が下がる
  • 脂質異常症:危険因子が重なると心血管リスクは20倍超(INTERHEART)
  • 睡眠時無呼吸・痛風・抗血栓薬・がん治療それぞれの注意点
  • 女性:プレコンセプションケアと妊娠中のRA系禁忌
  • 高齢者:75歳以上も130未満が基本。ただし「健康・機能状態」で個別化(表10-4・CQ14)。フレイル・ポリファーマシーへの配慮

🍬 糖尿病 ― 目標は「130/80」、薬は同等

糖尿病の人は高血圧を合併しやすく(非糖尿病の約2倍)、高血圧の人は糖尿病を合併しやすい(非高血圧の2~3倍)という、双方向の関係があります。両者が重なると細小血管障害(網膜・腎・神経)と大血管障害(脳・心臓)のリスクが跳ね上がるため、良好な血糖管理とあわせて厳格な血圧管理が要になります。

📌 糖尿病合併高血圧のポイント(JSH2025 POINT 10a)
1降圧目標は診察室130/80未満・家庭125/75未満。
2140/90以上はただちに降圧薬を開始。130~139/80~89では1ヵ月を超えない範囲で生活習慣改善を試みる。
3薬の選び方は「高リスクⅠ度・Ⅱ/Ⅲ度高血圧に対する降圧薬の使い方」(第8章)を遵守。
4微量アルブミン尿・蛋白尿があればRA系阻害薬(ARB/ACE阻害薬)で腎症進展抑制を狙う。

薬剤選択では、糖・脂質代謝の面からRA系阻害薬や長時間作用型のジヒドロピリジン系Ca拮抗薬がインスリン感受性を改善し脂質代謝に影響しないとされ、糖尿病の新規発症抑制ではARB・ACE阻害薬がCa拮抗薬より優れた効果が報告されています。一方、利尿薬とβ遮断薬はインスリン感受性を下げトリグリセリドを上げる点で不利な面が指摘され、とくにβ遮断薬は低血糖症状(動悸・震え)を自覚しにくくするため注意します。

CQ
12
糖尿病合併高血圧で、130/80mmHg未満を目標とした降圧は脳心血管病の発症・死亡を防ぐか?

→ 成人の糖尿病合併高血圧では、130/80mmHg未満を目標とした降圧治療を強く推奨します。

推奨の強さ 1 / エビデンスの強さ B / 合意率 100%

HOT・ABCD・ACCORD・SPS3・J-DOIT3・RESPECT・STEP・ESPRIT(解析後にBPROADも)の8RCTのメタ解析。130/80未満を目標とした積極降圧は、複合心血管イベントを16%減少(RR 0.84)、脳卒中を22%減少(RR 0.78)させました。冠動脈疾患は低下傾向(RR 0.83)、全死亡・心血管死亡は有意差なし。有害事象はACCORDの積極群で増えました(RR 2.58)が、J-DOIT3を含めると2群差は消失しました。なお解析後のBPROAD追加で冠動脈疾患も有意な低下となり、有害事象は非有意になりました。

図:糖尿病で130/80未満を目標 vs 140/90以上(統合値・相対リスクと95%CI)
左(<1)=積極降圧で良い/右(>1)=増える。赤は「増える(害)」。
複合心血管イベント
0.84 [0.73–0.97]
脳卒中
0.78 [0.63–0.97]
冠動脈疾患
0.83 [0.68–1.03]
全死因死亡
0.72 [0.43–1.20]
心血管死亡
0.62 [0.30–1.29]
有害事象(ACCORD)
2.58 [1.70–3.91]
0.10.51210
← 積極降圧で良い140/90以上で良い →
CQ
13
糖尿病合併高血圧で、RA系阻害薬はCa拮抗薬・サイアザイド系利尿薬より脳心血管病を改善するか?

→ RA系阻害薬の優位性は認められず、RA系阻害薬・Ca拮抗薬・サイアザイド系利尿薬のいずれの使用も弱く推奨します。

推奨の強さ 1 / エビデンスの強さ B / 合意率 100%

ALLHAT・CASE-J・STOP-2・IDNT・FACET・JIMIC-B・NESTERなど12RCTのメタ解析で、複合脳心血管イベント(RR 0.93)・全死因死亡(RR 1.00)・脳卒中(RR 1.14)・心筋梗塞(RR 0.64)のいずれも、RA系阻害薬とCa拮抗薬/サイアザイド系利尿薬の間に差はありませんでした。つまり「同じだけ下げられるなら、第一選択をRA系に限る根拠はない」。ただし腎保護(蛋白尿)や糖代謝などの理由でRA系が望ましい場面は多く、CQ12/13は「目標値」と「薬剤クラスの優劣」を分けて読むのがポイントです。

図:糖尿病でRA系 vs Ca拮抗薬/サイアザイド系(統合値・相対リスクと95%CI)
左(<1)=RA系で良い/右(>1)=Ca/利尿で良い。1をまたぐ=差なし。
複合脳心血管
0.93 [0.81–1.07]
全死因死亡
1.00 [0.92–1.08]
脳卒中
1.14 [1.00–1.31]
心筋梗塞
0.64 [0.32–1.22]
0.10.51210
← RA系で良いCa/利尿で良い →

出典:JSH2025 第10章「1. 糖尿病」・POINT 10a・CQ12・CQ13(HOT・ACCORD・J-DOIT3・SPRINT・ESPRIT・ALLHAT・CASE-Jほか)

⚖️ 肥満 ― たった3%の減量で血圧が下がる

肥満の人は非肥満に比べ高血圧の割合が2~3倍。とくに若年からの肥満や中年期にかけての体重増加が大きい人に多く、成因には交感神経の亢進・食塩感受性・インスリン抵抗性が関わります。肥満者は睡眠時無呼吸を伴いやすく、これも高血圧を悪化させます。朗報は、減量の降圧効果が確立していること。メタ解析では4~5kgの減量で有意な降圧が得られ、特定保健指導でも1年で3%以上の体重減少で有意な降圧が認められました。

降圧薬は通常の高血圧治療に準じますが、糖代謝改善の面からはARB・ACE阻害薬が推奨されます。CASE-JではARBがCa拮抗薬に比べ糖尿病新規発症を抑え、その効果はBMI25以上の肥満群で顕著でした。ACCOMPLISHではCa拮抗薬がBMI30以上の肥満群で利尿薬より心血管イベントを抑えました。高度肥満では減量・代謝改善手術も有効で、日本人の腹腔鏡下スリーブ状胃切除322例を検討したJ-SMART研究では、術後2年で平均36kgの減量とともに高血圧管理の改善率は41.8%でした。

📌 肥満合併高血圧のポイント(JSH2025 POINT 10b)
1肥満者では高血圧の合併率が高い。
2まず食事・運動療法による減量を行い、3%以上の減量で有意な降圧効果が期待できる。減量指導後も不十分なら薬物療法を導入。

出典:JSH2025 第10章「2. 肥満」・POINT 10b(CASE-J・ACCOMPLISH・J-SMART)

🩸 脂質異常症 ― 危険因子が重なると、リスクは「掛け算」

脂質異常症を合併した高血圧は、内科で最も頻繁に出会う組み合わせの一つです。怖いのは、危険因子が「足し算」ではなく「掛け算」でリスクを押し上げること。INTERHEART研究では、高血圧・2型糖尿病・脂質異常症・喫煙が併存すると、高血圧のみの場合と比べ心筋梗塞の発症リスクが20倍以上に増加すると示されました。EPOCH-JAPANでは血圧と総コレステロールの相乗効果が、久山町研究ではLDL上昇による冠動脈疾患・脳梗塞リスクの上昇が示されています。だからこそ、血圧だけを単独で治療しても効果は限定的で、危険因子を包括的に管理することが重要です。

脂質異常症を合併すると動脈硬化性疾患予防ガイドラインでリスク第二層(中等リスク以上)に分類されます。治療では、リスクの高低にかかわらずまず生活習慣の改善を。食事はDASH食が血圧とLDLの低下に有効で、薬物では降圧薬とスタチンの併用が脳心血管病を有意に減らします。降圧薬としてはCa拮抗薬・ARB・ACE阻害薬が脂質代謝に影響せず、α遮断薬は脂質代謝の軽度改善効果があります(利尿薬・β遮断薬は脂質に不利な面)。

📌 脂質異常症合併高血圧のポイント(JSH2025 POINT 10c)
1脂質異常症合併はリスク第二層に分類され、中等リスク以上となる。
2脂質管理目標値は血圧値・糖代謝異常なども考慮し、久山町スコアでリスクを評価して定める。
3リスクの高低にかかわらず生活習慣を改善し、高リスクなら薬剤による治療を行う。

出典:JSH2025 第10章「3. 脂質異常症」・POINT 10c(INTERHEART・EPOCH-JAPAN・久山町・DASH)

😴 睡眠時無呼吸(OSAS) ― 治りにくい高血圧の「隠れ原因」

閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)は二次性高血圧の最も多い原因で、治療抵抗性高血圧を含むコントロール不良の高血圧の背景にしばしば潜みます。高血圧患者の約30%がOSASを合併し、OSAS患者の約50%が高血圧を合併します。夜間の低酸素と再酸素化の繰り返しが交感神経を過剰に活性化させ、夜間高血圧(non-dipper/riser型)・早朝高血圧・治療抵抗性高血圧を呈しやすくなります。いびきや日中の眠気がある人だけでなく、早朝高血圧や治療抵抗性高血圧の人でも積極的にOSASを疑うべきです。

OSASに対するCPAP療法は血圧を適度に下げ、その効果は重症OSASやコントロール不良の高血圧で大きく、4時間以上/晩の使用や良好なアドヒアランスで早朝血圧の低下が大きくなります。減塩を中心とした減量はCPAPの降圧効果をさらに高めます。OSASを合併する高血圧では、減塩・減量と並行して保険適用に応じCPAPを実施し、夜間血圧を含めた24時間の降圧療法を行います。当院は睡眠時無呼吸の診療にも力を入れています(睡眠時無呼吸の検査・CPAPについてもご相談ください)。

📌 OSAS合併高血圧のポイント(JSH2025 POINT 10d)
1OSASは二次性高血圧の代表的成因で、治療抵抗性を含むコントロール不良高血圧の原因にもなる。適切に診断・治療を。
2CPAP療法は血圧を適度に下げ、重症OSASやコントロール不良で効果が大きい。アドヒアランス維持が降圧効果を高める。
3減塩・減量と並行してCPAPを実施し、夜間血圧を含む24時間の降圧療法を行う。

出典:JSH2025 第10章「4. 睡眠時無呼吸症候群」・POINT 10d

🦶 高尿酸血症・痛風 ― 尿酸に「やさしい」降圧薬を選ぶ

高尿酸血症は高血圧に高率に合併し、血清尿酸値が1mg/dL上がると高血圧の有病率が13~20%高くなると報告されています。無症候でも高血圧の新規発症や進行の独立した危険因子で、痛風は脳心血管病の危険因子でもあるため、痛風予防の観点からも管理が重要です。降圧薬選択では尿酸代謝への配慮が必要で、利尿薬(サイアザイド系・ループ)やβ遮断薬は尿酸を上げます。Ca拮抗薬・ACE阻害薬・多くのARBは尿酸代謝に影響しないことが多いですが、一部のARB(ロサルタン・イルベサルタン)やARNI(サクビトリルバルサルタン)は尿酸降下作用があり、高尿酸血症合併に適しています。ロサルタンとCa拮抗薬の併用で痛風発症リスクが減少した報告もあります。

図10-1:高尿酸血症の治療指針(日本痛風・尿酸核酸学会 第3版より要約)
高尿酸血症(血清尿酸値 > 7.0 mg/dL)
▼
痛風関節炎または痛風結節は?
あり
血清尿酸値 ≧ 8.0 で
薬物治療を考慮
なし → 合併症あり / なし
合併症あり:≧ 8.0~9.0で考慮
合併症なし:≧ 9.0で考慮
▼ いずれも、まず ▼
全例で生活指導(肥満是正・プリン体/果糖/アルコール制限・有酸素運動・水分摂取)
▼ 上記でも目標未達なら ▼
薬物治療(管理目標:血清尿酸値 6.0 mg/dL以下)
※合併症=腎障害・尿路結石・高血圧・虚血性心疾患・糖尿病・メタボリックシンドロームなど
📌 高尿酸血症・痛風のポイント(JSH2025 POINT 10e)
1高尿酸血症は高血圧に合併しやすく、腎機能低下や心血管イベントと関連。尿酸管理に配慮した高血圧診療を。
2尿酸値 >7.0で診断し、肥満是正・プリン体/果糖/アルコール制限・有酸素運動などの生活指導を開始。
3高血圧患者で尿酸値 ≧8.0なら尿酸降下薬の開始を考慮し、6.0以下を管理目標とする。
4降圧薬は尿酸代謝に好ましい薬剤(ロサルタン等)を優先的に。

出典:JSH2025 第10章「5. 高尿酸血症・痛風」・図10-1・POINT 10e

💊 抗血栓薬を飲んでいる方 ― 出血を防ぐ「厳格な」血圧管理

脳梗塞・心筋梗塞・心房細動などのために抗血小板薬や抗凝固薬(DAPT=2剤併用を含む)を服用する人が増えています。これらの薬は出血、とくに頭蓋内出血を増やし、高血圧はその最大の危険因子です。だから「血をサラサラにする薬」を安全に続けるには、厳格な血圧管理が欠かせません。

わが国の前向き観察研究BATでは、頭蓋内出血を予測する血圧カットオフ値は130/81mmHgでした。PROGRESSの抗血栓薬服用者のサブ解析では、降圧で血圧が平均8.9/4.0mmHg低下し頭蓋内出血が46%減少。ラクナ梗塞を対象としたSPS3では、収縮期130未満への降圧群が130~149群に比べ全脳卒中19%減、とくに脳出血が63%有意に少なくなりました。これらから、抗血栓薬服用中は130/80mmHg未満を目指して慎重に降圧し、脳出血の既往があれば120/80未満のより厳格な管理も考慮します。

📌 抗血栓薬服用患者のポイント(JSH2025 POINT 10f)
1抗血栓薬(抗血小板薬・抗凝固薬)服用患者において、高血圧は頭蓋内出血の危険因子であるため、厳格な血圧管理を行う。

出典:JSH2025 第10章「6. 抗血栓薬服用患者」・POINT 10f(BAT・PROGRESS・SPS3・J-CAD)

🎗️ がん治療中の方(腫瘍高血圧学/Onco-Hypertension)

高血圧は担がん患者で最も多い合併症の一つで、がんと高血圧は加齢・喫煙・運動不足・肥満・糖尿病といった危険因子や、血管内皮障害・酸化ストレス・炎症などの発症基盤を共有する双方向の関係にあります。さらに、多くのがん治療で「がん治療関連高血圧」が起こります。とくに血管新生阻害薬は投与開始直後から血圧上昇や蛋白尿を起こし、長期投与で心筋梗塞・脳梗塞・末梢動脈閉塞など重篤な疾患を併発しうるため、発症早期から適切に降圧します。

適切な血圧管理は、高血圧緊急症の回避・脳心血管病予防だけでなく、最適ながん治療を中断せず継続するうえでも重要です。降圧目標はがんのクリニカルシナリオにより異なるため、がん治療医と連携します(一般に140/90以上で開始、動脈硬化性疾患・CKD・糖尿病があれば130/80を考慮、180/110以上や高血圧緊急症ではがん治療の中断・変更を検討)。小児・AYA世代のがんサバイバーでは晩期合併症として高血圧を呈することがあり、治療後は130/80を目標に長期の管理を、腫瘍科・循環器・腎臓・かかりつけ医・薬剤師が連携して行います。

📌 担がん患者診療のポイント(JSH2025 POINT 10g)
1高血圧は担がん患者で最も多い合併症の一つで、がんと高血圧の関係は双方向性。
2がん治療関連高血圧は多くのがん治療で認められ、治療継続のため発症早期から適切に降圧。
3がん治療後の血圧管理は、晩期高血圧も含め多職種連携で行う。

出典:JSH2025 第10章「7. 担がん患者」・POINT 10g(J-CAD・CTCAE v5.0)

🫁 その他の疾患 ― 喘息・COPD・肝疾患の薬の注意

気管支喘息・COPD

喘息を合併する高血圧では、Ca拮抗薬が気管支を弛緩させ推奨され、ARBは気道過敏性を減らす可能性があり使いやすい薬です。一方、非選択性β遮断薬・αβ遮断薬は気管支喘息に禁忌。ACE阻害薬は咳の副作用が喘息の悪化と紛らわしく推奨しません。COPDではCa拮抗薬・ACE阻害薬・ARB・少量の利尿薬が使用可能で、β遮断薬が必要ならβ1選択性を少量から。サイアザイド系は喀痰の粘稠度を高めるため少量に留めます。

肝疾患

肝硬変が重症になると血圧は低下傾向ですが、高血圧があれば通常の降圧療法を行います。肝代謝型の降圧薬は減量や投与間隔の延長が必要。メチルドパ・ラベタロールは薬剤性肝障害の頻度が高く肝障害患者には投与しません。非選択性β遮断薬(門脈圧低下→消化管出血・死亡リスク低下)やカルベジロールの使用が推奨され、肝硬変で腹水があるとサイアザイド系・フロセミドは肝性昏睡を誘発しうるため慎重に。テルミサルタンなど肝代謝型ARBは重篤な肝障害患者に禁忌です。

📌 喘息・COPD・肝疾患のポイント(JSH2025 POINT 10h)
喘喘息合併では非選択性β遮断薬・αβ遮断薬は禁忌。ACE阻害薬は推奨せず。Ca拮抗薬・ARB・少量利尿薬が使用可能。
肺COPD合併ではCa拮抗薬・ACE阻害薬・ARB・少量利尿薬が可。β遮断薬はβ1選択性を使用。
肝重症肝障害では肝代謝型降圧薬は減量。非選択性β遮断薬・カルベジロールが予後改善の可能性。ACE阻害薬・ARBは肝線維化抑制の可能性。

出典:JSH2025 第10章「8. その他の疾患」・POINT 10h

♀ 女性のライフステージ ― 性差・妊娠前ケア・閉経後

血圧には性差があります。女性は身長が低く動脈樹が短く、心拍数が高く動脈脈波の早期反射が中心収縮期血圧を増大させるため、上腕血圧と中心拡張期血圧が低くなり微小血管障害を来しやすい傾向があります。肥満の血圧への影響は男性より女性で大きく、食塩感受性も女性で高い。エストロゲンには血管拡張・抗動脈硬化など心保護作用があり、加齢に伴うその低下は食塩感受性の増加に関連します。月経困難症・経口避妊薬・子宮筋腫・多嚢胞性卵巣症候群・子宮内膜症・妊娠合併症の既往・更年期/閉経といった女性特有の危険因子、片頭痛・関節リウマチ・全身性エリテマトーデスなどの慢性炎症性疾患も高血圧と関連します。

プレコンセプションケア(妊娠前の準備)

プレコンセプションケアは、将来の家族計画にかかわらず、すべての若い世代が身体的・心理的・社会的健康を得ることを目的とした取り組みです。成育医療研究センターの「プレコン・チェックシート」は「できることから始めよう」と呼びかけています。高血圧合併妊娠は高リスク妊娠であり、妊娠前から高血圧と原疾患のコントロールをしっかり行う必要があります。

表10-1:プレコン・チェックシート(抜粋)
カテゴリーチェック項目
体・栄養適正体重をキープ/バランスの良い食事/葉酸を積極的に摂取/150分/週の運動
嗜好・生活禁煙・受動喫煙回避/アルコールを控える(妊娠したら禁酒)/よい睡眠/ストレスをためない
感染・予防感染症から自分を守る(風疹・B/C型肝炎・性感染症)/ワクチン接種/HPVワクチン確認
医療・持病生活習慣病をチェック(血圧・糖尿病・検尿)/持病と妊娠を知る(薬の内服)/かかりつけ婦人科医/がん検診/歯のケア
計画将来の妊娠・出産をライフプランとして考える/パートナーも一緒に健康管理
表10-2:妊娠年齢世代の高血圧女性(非妊娠時)診療のポイント
段階ポイント
評価妊娠の希望(生殖補助医療の有無)/血圧(高血圧のタイプ・二次性高血圧)と合併症
カウンセリング持病が妊娠に与える影響/妊娠が持病に与える影響/計画妊娠の重要性/安全で効果的な避妊方法
コントロール食事・運動療法/血圧や合併症の治療を最優先に降圧薬を選択/妊娠中はRA系阻害薬が禁忌であることを伝える/妊娠前に高血圧治療を開始

閉経後

わが国の平均閉経年齢は50歳。年齢調整解析では血圧は女性でより急峻に上昇し、閉経後はとくにその傾向が強くなります。脳心血管病の発症リスクは閉経後に顕著に上昇し、一般に男性より数年遅れて発症します。女性ではより低い血圧から脳心血管病のリスクが増加するという報告もあります。

📌 女性のポイント(JSH2025 POINT 10i)
1血圧には性差があり、女性特有の疾患や薬剤が血圧に影響しうる。
2生殖年齢の女性では妊娠前に二次性高血圧の鑑別を行い、高血圧と原疾患をしっかり治療する。妊娠中はRA系阻害薬が使用できないことを伝えておく。
3閉経前後より急激に血圧が上昇する傾向がある。

出典:JSH2025 第10章「9. 女性のライフステージ」・表10-1・表10-2・POINT 10i

🧑 青年期(15~20歳代前半) ― 成人に準じる

15~20歳代前半の青年期は体格的にも成人とほぼ同等のため、血圧の評価は成人の血圧値分類を用い、治療方針も成人に準じます。年齢が若いほど本態性高血圧の割合は小さく、腎血管性高血圧や慢性腎臓病など二次性高血圧の可能性を考慮します。血行動態的には交感神経活動の亢進で心拍出量と末梢血管抵抗が増し、動脈壁弾性が高いため拡張期血圧が高値となることが多い。血圧上昇には遺伝的素因とともに肥満・食塩摂取・ストレス・運動不足が関係することが多く、生活習慣の改善が重要です。

📌 青年期のポイント(JSH2025 POINT 10j)
1脳心血管病予防のため、青年期の高血圧に対しても成人に準じた血圧管理を行う。

出典:JSH2025 第10章「10. 青年期」・POINT 10j

👴 高齢者 ― 75歳以上も「130未満」が基本。ただし個別に

日本は65歳以上が人口の29.1%、75歳以上が16.1%に達する世界一の超高齢社会で、加齢とともに高血圧の有病率は増加し、65~74歳の63%、75歳以上の74%が高血圧です。日本老年学会・老年医学会は高齢者の定義を65歳以上から75歳以上に見直すことを提言しており、JSH2025は65~74歳は成人と同様に降圧、75歳以上は患者背景に応じて個別に検討する区分として扱います(65~74歳でも機能低下が強ければ75歳以上と同様に判断)。高齢者は大血管の硬化・弾性低下で孤立性収縮期高血圧(ISH)が主体となり、食塩感受性の増大も加わります。

表10-3:高齢者の高血圧の特徴と関連病態(要約)
区分内容
特徴高血圧有病率の増加/孤立性収縮期高血圧(ISH)の増加
血圧変動性起立性低血圧・食後低血圧の増加/白衣高血圧・仮面高血圧の増加
臓器合併症心不全(HFpEF)・心房細動・CKDの増加
降圧療法への影響降圧薬による有害事象の増加/アドヒアランスの低下
主な成因大血管の硬化・弾性低下/左室壁肥大/圧受容器反射の障害/GFR低下・食塩感受性増大/筋骨格系機能低下(フレイル・サルコペニア・骨粗鬆症)/認知機能低下(MCI・認知症)
CQ
14
75歳以上の高齢者の降圧目標は収縮期130mmHg未満か?精神・身体機能低下で目標は変わるか?

→ 忍容性のある75歳以上では、収縮期130mmHg未満を強く推奨します。ただし精神・身体機能低下が疑われる場合は個別に判断します。

推奨の強さ 1 / エビデンスの強さ A / 合意率 95.5%

SPS3・SPRINT・INFINITY・RESPECT(70歳以上サブ解析)・PODCAST・STEP・ESPRITのメタ解析。75歳以上で収縮期130未満を目標とした降圧は、重篤な有害事象を増やすことなく複合心血管イベント39%減(RR 0.61)・全死因死亡28%減(RR 0.72)・脳心血管病死亡45%減(RR 0.55)を達成。重篤な有害事象は増えませんでした(RR 1.00)。一方、糖尿病・冠動脈疾患・脳卒中既往・CKDの有無別やフレイルの程度別(SPRINTのFrailty index)に目標を変える根拠は認められず、「併存疾患やフレイルの程度で目標値を変える必要はない」と結論づけられました(ただし介護施設入所者・認知症患者は研究から除外されており、機能が大きく低下した高齢者には適用できません)。

図:75歳以上で収縮期130未満 vs 標準降圧(統合値・相対リスクと95%CI)
左(<1)=積極降圧で良い。重篤な有害事象は1(=増えない)。
複合心血管イベント
0.61 [0.40–0.94]
全死因死亡
0.72 [0.56–0.93]
脳心血管病死亡
0.55 [0.35–0.88]
脳卒中
0.75 [0.48–1.19]
重篤な有害事象
1.00 [0.93–1.08]
0.10.51210
← 積極降圧で良い標準降圧で良い →

75歳以上は「健康・機能状態」で個別化 ― 表10-4

とはいえ、すべての75歳以上を一律に下げるわけではありません。JSH2025は、自力で通院できるか・ADLが保たれているかといった健康・機能状態でカテゴリー1~4に分け、目標を個別化することを提案します(カテゴリー分類による降圧の見直しは、心不全やCKDの悪化につながる可能性もあるため、減量時は症状・検査値に注意して慎重に)。

表10-4:75歳以上の健康・機能状態によるカテゴリー分類と降圧指針
区分カテゴリー1
自力で外来通院可
カテゴリー2
通院に介助が必要
カテゴリー3
通院困難・基本的ADL低下
カテゴリー4
エンド・オブ・ライフ
全般的状態健常~フレイルフレイル~要介護要介護エンド・オブ・ライフ
降圧目標130/80未満収縮期140未満
(合併症等で130未満も個別判断)
収縮期150未満
(120未満への降圧は避ける)
個別判断
(目安:収縮期140~160)
その他の方針非高齢者と同様収縮期120未満で降圧薬の減量を考慮段階的な減量・中止を考慮
(未治療なら新規治療は行わない)

フレイル・要介護・エンド・オブ・ライフ

フレイルは「健常と要介護の中間」で、介入により健常に戻りうる状態です。日本語版フレイル基準(J-CHS基準)では、①体重減少(6ヵ月で2kg以上)②筋力低下(握力 男<28kg/女<18kg)③疲労感④歩行速度低下(<1.0m/秒)⑤身体活動低下、の5項目中3項目以上をフレイル、1~2項目をプレフレイルとします。CQ14のとおりSPRINTではフレイルの程度によらず積極降圧の利益が示されましたが、これは自力で通院できるレベルの高齢者像が前提。基本的ADLが低下した要介護高齢者を支持する研究は乏しく、フランスの介護施設入所者を対象としたPARTAGE研究では、降圧薬2剤以上で収縮期130未満の人はそれ以外より生命予後が悪いと報告されました。フレイルから要介護への移行期に、積極降圧のリスク・ベネフィットが逆転することが示唆されます。エンド・オブ・ライフでは降圧療法がむしろ有害な可能性もあり、起立時の血圧評価や転倒リスクの説明が重要です。

⚠️ 高齢者で特に注意すること

降圧薬の導入初期・増量時は転倒・骨折のリスクが上がります。起立性低血圧(臥位から起立1分の収縮期20/拡張期10mmHg以上の低下)のスクリーニングを行い、75歳以上では初期量を常用量の半量から始めて段階的に増量。減量も血圧をモニターしながら基本的に1剤ずつ行います。

ポリファーマシー ― 「足し算」より「引き算」

ポリファーマシーは多剤(通常5~6種類以上)の服用で有害事象リスクが増えた状態。高齢者では薬の相互作用で効果が減弱したり副作用が増強したりします。対策は、潜在的に不適切な薬剤(PIMs)や処方されるべき薬が抜けている状態(PPO)を定期的に見直すこと。降圧薬で生じる有害事象(表10-5)に対し別の薬が足される「処方カスケード」を避け、一包化・配合剤でアドヒアランスを高め、2剤以上を内服する80歳以上で収縮期150未満なら1剤減量しても多くは悪化しないことが示されています(減量は血圧を見ながら1剤ずつ)。医師・薬剤師・看護師の多職種連携が鍵です。

表10-5:高齢者で生じやすい降圧薬の有害事象(例)
薬剤生じやすい有害事象
Ca拮抗薬下腿浮腫・夜間頻尿・便秘
RA系阻害薬
MR拮抗薬
低ナトリウム血症・高カリウム血症
サイアザイド系
利尿薬
低ナトリウム血症・低カリウム血症・高カルシウム血症・高尿酸血症
📌 高齢者のポイント(JSH2025 POINT 10k 抜粋・全14項目より)
1高齢者では孤立性収縮期高血圧が著しく増加。血圧変動性の増大で有害事象が生じやすい。
275歳以上は患者背景に応じ降圧方針を個別検討する年齢区分。健康・機能状態のカテゴリー(表10-4)で方針を決定。
375歳以上は初期量を常用量の1/2から開始し段階的に増量。減量も1剤ずつ。
4処方カスケードを回避し、多職種連携でポリファーマシー対策を。フレイルでは転倒リスクに注意。
5要介護・エンド・オブ・ライフの高齢者の降圧療法のエビデンスは乏しい。

出典:JSH2025 第10章「11. 高齢者」・表10-3~10-5・CQ14・POINT 10k(SPRINT・STEP・ESPRIT・PARTAGE・J-CHS基準ほか)

🧭 まとめ ― 「あなた仕様」の高血圧治療

同じ高血圧でも、合併する病気とライフステージで最適解は変わります。糖尿病・抗血栓薬・がん治療では合併症に合わせた厳格な管理を、肥満では3%の減量から、痛風では尿酸にやさしい薬を、女性では妊娠を見据えたケアを、高齢者では「下げる利益」と「転倒・低血圧のリスク」を健康・機能状態のカテゴリーで丁寧に天秤にかける ―― これがJSH2025の考え方です。ガイドラインは「平均的な患者」の地図ですが、実際の診療は一人ひとりの背景に合わせて道を選びます。気になることは遠慮なくご相談ください。

こんな方は一度ご相談を

✅ 糖尿病・脂質異常症があり、血圧も高め(リスクが重なっている)

✅ いびき・日中の眠気・治療してもなかなか下がらない高血圧(睡眠時無呼吸かも)

✅ 痛風・尿酸が高いのに利尿薬を飲んでいる

✅ 血をサラサラにする薬を飲んでいて、血圧が気になる

✅ 妊娠を考えている/高血圧の薬を飲んでいる女性

✅ ご高齢で薬が多い・ふらつく・転びやすい(減らせる薬がないか相談したい)

❓ よくある質問

Q. 糖尿病があると、血圧はどこまで下げる?

診察室で130/80mmHg未満、家庭血圧で125/75mmHg未満が目標です。140/90以上はすぐ薬を始めますが、130台/80台では1ヵ月以内をめどに生活改善を試すこともあります。薬はRA系・Ca拮抗薬など、腎臓や糖代謝も考えて選びます。

Q. 痛風があります。血圧の薬で尿酸が上がることはある?

あります。利尿薬やβ遮断薬は尿酸を上げやすい薬です。一方でロサルタンなど一部のARBには尿酸を下げる働きがあり、痛風・高尿酸血症の方に向いています。尿酸が気になる方は遠慮なくお伝えください。

Q. 妊娠を考えています。今の血圧の薬は続けて大丈夫?

RA系阻害薬(ARB・ACE阻害薬)は妊娠中は使えません。妊娠を考える段階で、妊娠中も使える薬への切り替えや、二次性高血圧の有無の確認をしておくことが大切です。妊娠前に血圧と持病をしっかり整えましょう(プレコンセプションケア)。

Q. 高齢の親が薬を6種類も飲んでいて、ふらつきます。減らせない?

見直せる可能性があります。高齢では「下げ過ぎ」による転倒・低血圧が問題になります。健康・機能状態に応じて目標を個別化し、血圧を見ながら基本的に1剤ずつ慎重に減量します。自己判断で中止せず、まずご相談ください。

🩺

執筆:加藤 丈陽(かとう たけあき)/かとう内科 院長

総合内科専門医(日本内科学会認定・認定番号 029447)

愛媛県今治市の「かとう内科」院長。総合内科専門医として、高血圧・糖尿病・脂質異常症・睡眠時無呼吸・肥満症などの生活習慣病を中心に、地域のかかりつけ医として日々の診療にあたっています。一人ひとりの合併症やライフステージに合わせた高血圧管理を心がけ、日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』など最新のエビデンスにもとづく診療を行っています。

※この記事は一般的な情報提供を目的とした解説で、特定の製品の推奨や個別の処方指示ではありません。降圧目標や薬の選択は、合併する病気・腎機能・年齢・妊娠の可能性などによって大きく異なります。自己判断で薬を開始・変更・中止せず、必ず主治医にご相談ください。記載の内容は日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』第10章にもとづいています。図のフォレストプロットはガイドライン掲載のメタ解析の統合値をもとに作図したものです。

PAGE TOP