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高血圧の生活習慣改善 ― 減塩・カリウム・運動・節酒・禁煙を徹底解説

薬の前にも、薬と一緒にも効く ― 9つのポイントと最新エビデンス

高血圧 生活習慣の改善 かとう内科(愛媛県今治市)|2026.09.07 更新

高血圧治療の“土台”は、じつは薬ではなく生活習慣の改善です。生活習慣の改善は、高血圧の予防にも、薬を始める前にも、そして薬を始めたあとにも効きます。この記事では、日本高血圧学会ガイドライン(JSH2025)の9つのポイントを骨格に、減塩・カリウム・体重・運動・節酒・禁煙・睡眠・デジタル活用までを、最新の研究と数値(何をどれだけやれば、血圧が何mmHg下がるのか)とともに、総合内科専門医の視点で徹底解説します。「で、結局どうすればいいの?」という臨床的な疑問(CQ・Q)にも一つずつお答えします。

この記事でわかること
  • JSH2025が示す生活習慣改善の9つのポイントと、各項目の降圧効果(mmHg)
  • 減塩・カリウム(Na/K比)・適正体重・運動・節酒・禁煙の具体的な目標と根拠
  • 運動はどの種類が効くのか(84件・5,065例のメタ解析/CQ6)
  • 「何をすればいい?」に答えるCQ6・CQ7・Q3・Q4・Q5(減塩目標・尿Na/K比・アプリ)
📌 この章の要点(JSH2025 POINT 7)
1生活習慣の改善は、高血圧予防や降圧薬開始前のみならず、降圧薬開始後も重要。
2食塩(Na)制限:減塩目標は6g/日未満。
3Na以外の栄養素・食事パターン:カリウム(K)を多く含む野菜・果物・低脂肪乳製品を積極的に。DASH食・地中海食も。減塩+増KでNa/K比を下げる。
4適正体重の維持:BMI 25未満。
5運動:軽~中等度の有酸素運動を毎日30分以上。レジスタンス運動も有効。
6節酒:エタノールで男性20~30mL/日以下、女性10~20mL/日以下。
7禁煙:加熱式たばこも含めて禁煙。禁煙後の体重増加に注意。
8その他:寒冷曝露の回避、適切な睡眠時間(6~8時間)、便秘の回避、ストレス管理。
9デジタル活用:スマホアプリ・遠隔保健指導、尿Na/K比などを測るデバイスが降圧に有用。

出典:日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』第7章 POINT 7

表7-1:生活習慣の改善項目(一覧)
項目 目標・内容
食塩(Na)制限 食塩 6g/日未満
カリウム(K) 野菜・果物・低脂肪乳製品などでKを積極摂取(減塩・増KでNa/K比を下げる)。カルシウム・マグネシウム・食物繊維・不飽和脂肪酸も
適正体重 BMI(体重kg÷身長m²)25未満を維持
運動 軽~中等度の有酸素運動を毎日30分以上。低強度レジスタンス運動も可
節酒 エタノールで男性20~30mL/日以下、女性10~20mL/日以下
禁煙 加熱式たばこなどの新型たばこも含めて禁煙
その他 寒冷曝露の回避、適切な睡眠、便秘の回避、ストレス管理
⚠ 個別化が必要なケース

腎障害でK制限が必要な方は、野菜・果物の積極摂取は推奨されません。糖尿病・肥満を合併する方は果物摂取の量を個別に調整します。高齢者・透析中の方は、減塩で低栄養・フレイルにならないよう柔軟に調整します。必ず主治医・管理栄養士にご相談ください。

① 減塩(食塩制限)― まず6g/日未満

POINT 7 ②

食塩のとりすぎが血圧を上げ、減塩が血圧を下げ、脳心血管病の発症を抑えることは、多くの介入研究で証明されています。JSH2025は、欧米の大規模介入研究をもとに食塩6g/日未満を目標にしています。減塩の効果やしくみは第3章「減塩 ― エビデンスで徹底解説」で詳しく扱っていますので、ここでは「どう評価し、どう続けるか」を中心に。

まず“いまの塩分量”を測る

減塩の第一歩は、自分の食塩摂取量を知ることです。評価法には、(1) 食事内容から評価する方法(食物摂取頻度調査・塩分チェックシート・管理栄養士による24時間思い出し法)と、(2) 尿のナトリウム排泄量を測る方法があります。両方を行うと「どの食品・調味料を、どれくらい減らせばよいか」まで具体的に指導できます。食塩摂取量は日によって変動するため、長く続けるには、評価と指導の繰り返しが大切です。日本高血圧学会が認定した減塩食品(調味料・加工食品)の活用や、買い物のときに栄養成分表示を確認する習慣も有効です。

⚠ 高齢の方の減塩は“ほどほど”に

高齢者にも減塩は有効ですが、行きすぎると食欲が落ち、低栄養やフレイル(虚弱)を招くことがあります。フレイルの高齢者や透析中の方では、6g/日にこだわらず、体格・栄養状態・活動量をみて柔軟に調整します。

Q3減塩目標を6g/日未満より、さらに引き下げる必要はある?

→ 6g/日よりさらに下げれば、血圧のさらなる低下が期待できます(減塩の効果は“量に比例”します)。

→ ただし、年齢・性・活動量に応じた必要エネルギーや、たんぱく質・脂質・炭水化物のバランス、その他の栄養素を確保できることが前提。これが守れないなら、6g/日未満より無理に下げる必要はありません。

減塩の降圧効果は「量に比例」します。実際、海外のガイドラインはより低い目標(ACC/AHAは3.8g/日未満、欧州(ESC/ESH)・WHOは5g/日未満)を掲げています。一方で、低く設定すれば達成は難しくなります。高血圧患者186例に減塩指導と24時間蓄尿による評価を平均7.7年間で10回行った研究では、男性の40%・女性の27%は一度も6g/日未満を達成できず、5回以上達成できたのは男性7%・女性19%にとどまりました。だからこそ「無理なく続けられる範囲で、できるだけ」が現実的です。栄養を犠牲にしてまで下げる必要はなく、管理栄養士の支援があると安全に進められます。

出典:JSH2025 第7章「1. 食塩制限」・Q3

Q4スポット尿(その場の尿)で食塩量を推定して行う減塩指導は有効?

→ スポット尿による推定法を使った減塩指導で、実際に減塩できる人がいます。

→ ただし、血圧コントロールまで下げられるかは、現時点では不明です。

食塩量を最も正確に測るのは24時間ためた尿(24時間蓄尿)ですが、手間がかかります。そこで、その場で採る尿(スポット尿)から推定する簡便な方法が使われます。精度は蓄尿に劣るものの、くり返し測れるのが利点。塩分チェックシートなどと併用すると効果が高まります。1g/日の減塩で血圧は平均1.0/0.5mmHg程度下がるとされますが、血圧調節には食塩以外の要素も多く関わるため、減塩指導だけで十分にコントロールできるとは限りません。

出典:JSH2025 第7章 Q4

② カリウム(K)と食事パターン ― Na/K比を下げる

POINT 7 ③

減塩と並ぶもう一本の柱がカリウム(K)を増やすことです。Naを減らし、Kを増やすことで、血圧と関わりの深いNa/K比(ナトリウムとカリウムの比)が下がります。NaとKの摂取は正の相関があり、じつは「減塩するとKも一緒に減りやすい」ため、意識してKを補う必要があります。

カリウム不足は高血圧・脳心血管病の危険因子で、とくに塩分の多い人や高血圧の人では、K摂取を増やすと血圧が下がり、脳心血管病や death のリスクも下がると報告されています。日本人の食事摂取基準2025年版は、生活習慣病予防の目標量を成人男性3,000mg/日以上・女性2,600mg/日以上としていますが、日本人の実際の摂取は約2,200mg/日と低めです。

減塩しつつカリウムを増やす ― 具体的な目標
何を どれくらい
① 野菜 1日 350g
② 果物 1日 200g(糖尿病・肥満の方は量を個別調整)
③ 低脂肪乳製品ほか 低脂肪牛乳・乳製品、緑茶、コーヒーなどを組み合わせて

代替塩(減塩しお)という選択肢

食塩のNaの一部をKに置き換えた代替塩(減塩しお)は、ランダム化大規模臨床試験で有意な降圧と、総死亡・脳心血管病死亡の減少、さらに医療経済的なメリットまで示されています。日本でも市販されており、K制限の必要がない方には、切り替えを勧めることがK摂取を増やす意味でも有用です。ただし、腎機能が低下している方・K制限中の方・ACE阻害薬/ARBを服用中の方は高カリウム血症の危険があるため、必ず主治医に相談してください。

DASH食・地中海食 ― 理想的な“食べ方”

DASH食や地中海食は、Kに加えてカルシウム・マグネシウム・食物繊維・不飽和脂肪酸を多くとり、飽和脂肪酸やコレステロールを抑えた食事パターンで、降圧効果と脳心血管病リスク低下が示された“理想的な食事”です。実践のコツは、肉より魚を主に/主食に全粒穀物(玄米・全粒粉など)/豆類をとる/間食やつまみは無塩のナッツに。

Q5尿Na/K比の測定は減塩・血圧管理に有効?目標値は?

→ 健常な日本人の目標値は、2未満(至適目標)、4未満(実現可能な目標)。

→ 全国の健診・医療機関で、採血より負担が少なく安価・簡便に測定可能。減塩とK摂取増の“ものさし”として活用が期待されます。

尿Na/K比は、尿に出たNa濃度とK濃度の比で、食事のNaとKのバランスを客観的に表します。摂取したNaの約90%、Kの70~80%が尿に出るため、食事の傾向をよく反映します。日本人の地域住民の研究で、尿Na/K比が高いほど血圧が高く、しかもNa単独・K単独よりも血圧との関連が強いと報告されています。正確には複数日のスポット尿(週4日以上、異なる時間帯)の平均で評価するのが推奨で、健診で1回だけ測る場合は起床後第2尿(午前9時頃)が望ましいとされます。地域健診で測定結果をその場で返却し保健指導を行ったところ、翌年に尿Na/K比と血圧の有意な低下が認められた、という報告もあります。

出典:JSH2025 第7章「2. Na以外の栄養素と食事パターン」・Q5

③ 適正体重の維持 ― BMI 25未満

POINT 7 ④

日本ではBMI 25以上を肥満とします。男性の肥満割合は平成25年の28.6%から令和5年には31.5%へ増加し、特に30~69歳では3割以上。肥満は高血圧の強い発症要因で、BMIの高値や、若年期から中高年にかけての体重増加が危険因子になります。

-1.1 / -0.9mmHg
体重を1kg減らすごとの
収縮期 / 拡張期 血圧低下
3%の減量
日本人の肥満者では、
3%以上の減量で有意な降圧

減量の降圧効果はかなり明確で、体重-1.0kgあたり収縮期-1.1mmHg・拡張期-0.9mmHg、BMIを2.27kg/m²減らすと収縮期-5.79mmHg・拡張期-3.36mmHgという推定があります。日本人の肥満者では3%以上の減量で有意な降圧が得られます。まずは食事・運動を組み合わせた包括的な生活習慣改善で減量を。なお、食事療法だけの減量は降圧効果が一時的になりやすく、エビデンスレベルも高くないとされるため、方法と“続けやすさ”が大切です。

肥満には内臓脂肪型と皮下脂肪型があり、とくに内臓脂肪は血圧を上げ動脈硬化を進めます。内臓脂肪型では、BMIが25未満でも内臓脂肪を減らすことが重要です。肥満を合併した高血圧の薬物治療では、インスリン抵抗性を改善するARB・ACE阻害薬が勧められ、降圧が不十分ならCa拮抗薬や少量の利尿薬を追加します。近年はGLP-1受容体作動薬(インクレチン製剤)が食欲を抑え、降圧効果も期待されますが、適応は個別の判断になります。サルコペニア(筋肉減少)を合併する方は、低強度のレジスタンス運動と栄養療法で適正体重を保ちます。

出典:JSH2025 第7章「3. 適正体重の維持」

④ 運動 ― 週150~300分、有酸素もレジスタンスも

POINT 7 ⑤

運動は、降圧だけでなく、体重・体脂肪の減少、インスリン感受性の改善、骨格筋の維持、認知症予防、メンタルヘルスまで幅広い効果がある“万能薬”です。まず、何を・どのくらいやればよいかを整理します。

運動の種類・強度・時間(高血圧の運動療法)
種類 例 強度 時間・頻度
有酸素運動 ウォーキング・ジョギング・水泳・自転車 軽~中等度(「ややきつい」/ Borg 11~13) 毎日30分以上、合計150~300分/週
レジスタンス運動 スクワット・腕立て・プランク 1RMの40~60%(導入時は30%程度) 8~10種を2~4セット、1日20分程度
複合運動 有酸素+筋トレ 上記を組み合わせ 有酸素30分+筋トレ20分、週2~3回

どの運動が効くのか ― 84件・5,065例のメタ解析(図CQ6-1)

「結局どの運動がいちばん血圧を下げるのか?」に答えたのが、84件のRCT・高血圧患者5,065例をまとめたメタ解析(運動療法群2,700例 vs 非運動療法群2,365例)です。結果は明快で、全体の降圧効果は収縮期-7.52mmHg・拡張期-4.36mmHg。そして運動の種類で降圧効果に差はありませんでした(交互作用P=0.815/0.417)。

図CQ6-1:運動の種類別 収縮期血圧の低下(mmHg)
全体-7.52
有酸素運動-7.85
等張性・動的レジスタンス-6.44
等尺性・静的レジスタンス-6.27
複合運動-7.64
拡張期も同様(有酸素-4.70/等張性・動的-3.19/等尺性・静的-3.51/複合-4.69mmHg)。種類による有意差なし。/JSH2025 図CQ6-1をもとに作成
CQ
6
レジスタンス運動(筋トレ)は、有酸素運動と同等の降圧効果がある?

→ レジスタンス運動は有酸素運動と同等の降圧効果を示すため、高血圧の運動療法として強く推奨します。ただし、患者さんの背景により運動の種類は個別に選びます。

推奨の強さ1 エビデンスの強さA 合意率100%

つまり、ウォーキングでも筋トレでも、続けられる運動を選んでよい、ということです。運動が血圧を下げるしくみは、交感神経やレニン系(血圧を上げる系)を抑え、利尿ペプチドなど(血圧を下げる系)を活性化して、心拍出量と末梢血管抵抗を下げることによると考えられています。

⚠ 運動の前に・運動の注意

II度高血圧以下で脳心血管病のない方は運動を始めてよく、III度高血圧では血圧を整えてから開始します。筋トレ中に強くいきむ(怒責・バルサルバ)と血圧が急上昇するため注意。高強度運動は血圧上昇が大きく、β遮断薬など心拍数に影響する薬を飲んでいる方は目標心拍数の設定に注意が必要です。座りっぱなしを減らし、1日9,000歩を目安に。持病のある方は事前にメディカルチェックを。

出典:JSH2025 第7章「4. 運動」・図CQ6-1・CQ6

運動に食事の相談を組み合わせる意義―2026年の小規模研究

🥗 2026年9月公表:同じ運動に「栄養指導」を足すと何が変わる?(ブラジルの無作為化試験)

高血圧のある50~80歳の32人を、「運動のみ」と「同じ運動+栄養指導」に半分ずつ分けて12週間くらべた小規模な無作為化試験が、2026年9月3日に高血圧の専門誌で公表されました(29人が最後まで参加)。運動はどちらのグループも同じで、有酸素運動と自分の体重を使った筋トレを1回60分・週2回。栄養指導は2週ごとに計6回のグループ形式で、食品の質を高めて超加工食品を減らす工夫が中心です(カロリーを制限する食事は処方していません)。

結果は、主要評価項目の空腹時血糖が、栄養指導を加えたグループのほうが運動のみのグループより約10mg/dL低くなりました(グループ間の差、P=0.004)。一方、収縮期血圧は、栄養指導グループの“中で”は約10mmHg下がったものの(P=0.034)、2つのグループの差としては統計学的に有意ではありませんでした(P=0.220)。つまり「栄養指導を足せば血圧がさらに10mmHg下がる」ことを示した研究ではなく、血糖の面で上乗せの利益がみられた、と読むのが正確です。

参加人数が少なく期間も短いため、心筋梗塞や脳卒中を防げるかどうかは評価されていません(事前の公開試験登録がないことも原著に記載されています)。また、この研究の「週2回」という運動量が、上で紹介したガイドラインの推奨(毎日30分以上・週150~300分)に置き換わるわけでもありません。それでも、運動と食事を別々ではなくセットで整えるという本章の考え方を後押しする結果といえます。当院でも、運動と食事の見直しはあわせてご相談いただけます。

出典:Schneider VM, et al. Journal of Human Hypertension(2026年9月3日オンライン公開)。原著論文(DOI: 10.1038/s41371-026-01217-7)

⑤ 節酒 ― 男性20~30mL、女性10~20mL

POINT 7 ⑥

お酒は1回飲むと数時間は血圧が下がりますが、習慣的に飲み続けると血圧は上がります。とくに収縮期血圧との関連は直接的・直線的です。出血性脳卒中は飲酒量に比例して増え、大量飲酒は高血圧・脳卒中に加えてアルコール性心筋症・心房細動・睡眠時無呼吸・がんの原因にもなり、死亡率を高めます。

飲酒を制限すると、1~2週間で降圧が現れます。メタ解析では、節酒の降圧効果は収縮期-3mmHg・拡張期-2mmHg程度。飲酒日記(セルフモニタリング)が役立ちます。

🍶 1日の上限(純アルコール量)
  • 男性:エタノール20~30mL以下(おおよそ ビール中瓶1本/日本酒1合/焼酎半合/ウイスキーダブル1杯/ワイン2杯 に相当)
  • 女性:その約半分の10~20mL以下

出典:JSH2025 第7章「5. 節酒」

⑥ 禁煙 ― 加熱式たばこも“込み”で

POINT 7 ⑦

喫煙(受動喫煙も含む)と高血圧・心血管病・脳卒中の関係は明らかで、禁煙は脳心血管病の発症・死亡を抑える、最も確実な「修正できる危険因子」です。近年増えている加熱式たばこも、血圧上昇・脈拍増加・動脈の弾力低下・血管内皮の障害などの害が示されており、加熱式を含めて禁煙が推奨されます。

医療者の短い禁煙指導でも禁煙率は上がります(5Aアプローチ:Ask=尋ねる/Advise=勧める/Assess=評価する/Assist=支援する/Arrange=フォローする)。ニコチン代替療法や禁煙外来の活用も有効です。

⚠ 禁煙後の体重増加に注意

禁煙後に体重が増えると血圧が上がることがあり、体重が増えた禁煙者の高血圧リスクは喫煙を続けた人と差がなかった、という報告もあります。禁煙時はエネルギー制限や運動で体重増加を防ぎましょう。もともと肥満のある方はとくに注意を。

出典:JSH2025 第7章「6. 禁煙」

⑦ その他の生活習慣 ― 寒さ・睡眠・便秘・ストレス

POINT 7 ⑧

1)寒冷

冬は血圧が上がり、変動も大きくなります。とくに入浴時は要注意で、室温が低いと高齢者では入浴後の血圧上昇が大きくなります。脱衣所や浴室を暖めることが大切です。

2)睡眠

睡眠は短すぎても長すぎても良くありません。日本人男性では、7時間程度に比べ6時間未満・8時間以上で高血圧の発症率が高いと報告されています。「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人は6時間以上、高齢者は床上時間が8時間以上にならないことが勧められています。

3)便秘

便秘は心血管イベントと関連します。排便時に強くいきむと血圧が上がり、心血管イベントの引き金になります。便秘の管理も高血圧対策の一部です。

4)ストレス

メタ解析では、心理的・社会的ストレスで高血圧の発症リスクが2倍以上に高まると示されています。ストレス管理・睡眠管理を組み込んだ高血圧治療補助アプリには、保険適用となっているものもあります。

出典:JSH2025 第7章「7. その他の生活習慣」

⑧ デジタル技術の活用 ― アプリ・遠隔・尿Na/K比デバイス

POINT 7 ⑨

スマートフォンアプリやデジタル機器も、血圧管理の心強い味方です。高血圧治療補助アプリ「HERB-DH1試験」では血圧低下作用が実証され、保険適用になりました。システマティック・レビューでは、アプリ介入で健常者は3ヶ月後まで、高血圧患者は6ヶ月後まで収縮期血圧が有意に低下しました。遠隔医療・保健指導や、尿Na/K比・尿中Na濃度を測るデバイスも、血圧や食塩摂取量の低下に有用です(ウェアラブル機器やAIによる管理は、現時点ではエビデンスがまだ十分ではありません)。

CQ
7
血圧管理アプリによる介入は、一般成人の血圧を下げる?

→ 成人(正常血圧・高血圧)に、血圧管理アプリによる介入を提案します。ただし、長期間(6ヶ月以降)の効果に関するエビデンスは不十分です。

推奨の強さ2 エビデンスの強さA 合意率100%

このCQの根拠が、RCT69件・観察研究30件を集めたメタ解析(図CQ7-1~3)です。主な結果を整理します。

図CQ7-1・7-2:アプリ介入による収縮期血圧の差(対 アプリ未使用群)
対象・期間 収縮期血圧の差(mmHg)
全体・介入6ヶ月後 -2.76(-3.94, -1.58)
健常者・3ヶ月後 -4.44(6ヶ月以降は実証されず)
高血圧患者・3ヶ月後 -7.71
高血圧患者・統合値 -5.30(-10.54, -0.06)

図CQ7-1は、Wang 2023・Kario 2021・Pletcher 2022など27件のRCTを並べたフォレストプロットで、統合した降圧効果は-2.76mmHg(研究間のばらつきは大きめ)。図CQ7-2は「健常者は3ヶ月、高血圧患者は3~6ヶ月で効果が出るが、その先の長期効果はまだはっきりしない」ことを示します。

さらに図CQ7-3はアプリの機能別の解析で、注目すべきは「血圧計とワイヤレス接続して正確な値を自動で取り込む機能」のあるアプリで降圧効果が大きい傾向(-5.42mmHg)だったことです。なお、採用されたRCTの1件では費用対効果も解析され、1 QALY(質調整生存年)の改善あたり約119万円と報告されました。安全性については、アプリ使用で有害事象が増えるというエビデンスは認められませんでした。

💡 アプリを使うなら
  • 上腕式血圧計とつながるアプリを選ぶと効果が出やすい傾向。
  • 血圧に詳しい医療者(かかりつけ医など)の管理のもとで使うのが望ましい。
  • 長期間の効果はまだ未確定。アプリは“補助”、基本は測定・減塩・運動・受診。

出典:JSH2025 第7章「8. デジタル技術の活用」・図CQ7-1~3・CQ7

🧭 まとめ ― 「複合的に・長く」がいちばん効く

ここまでの項目は、どれか一つだけより、複合的に・長く続けるほど効果が高まります(減塩-○mmHg、減量-○mmHg、運動-○mmHg…が積み重なります)。そして生活習慣の改善は、薬を始める前だけでなく、薬を飲み始めたあとも効き続けます。全部を一度にやろうとせず、できるところから一つずつで大丈夫です。

今日からできる7つの一歩

✅ 減塩:まずは“いつもの塩分”を知る(第3章/尿Na/K比)

✅ カリウム:野菜350g・果物200g・無塩ナッツ。K制限が必要な方は主治医に確認

✅ 体重:まず3%減を目標に(体重-1kgで約-1mmHg)

✅ 運動:ウォーキングでも筋トレでもOK。週150~300分・1日9,000歩

✅ 節酒:男性はビール中瓶1本まで、女性はその半分まで

✅ 禁煙:加熱式も含めて。禁煙外来も活用を

✅ 睡眠・寒さ・便秘・ストレスも整える。アプリは“補助”として

当院では、あなたの血圧・体格・生活・持病に合わせて、無理なく続けられる生活習慣の改善を一緒に組み立てます。薬の有無にかかわらず、生活の見直しは必ず力になります。気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

❓ よくある質問

Q. 薬を飲み始めたら、生活習慣はもう気にしなくていい?

いいえ。生活習慣の改善は、薬を始めたあとも効果が続きます。むしろ、生活が整うほど薬の量を減らせる可能性もあります(自己判断で薬を変えず、必ず主治医に相談してください)。

Q. 運動はウォーキングと筋トレ、どちらがいい?

どちらでも構いません。84件・5,065例のメタ解析で、有酸素運動も筋トレも、降圧効果に差はありませんでした(CQ6)。続けられる方を選び、できれば両方を組み合わせるのが理想です。

Q. 減塩のために「減塩しお(代替塩)」を使ってもいい?

多くの方には有用で、降圧や死亡リスク低下のデータもあります。ただし腎機能が低下している方、K制限中の方、ACE阻害薬・ARBを服用中の方は高カリウム血症の危険があるため、使う前に必ず主治医にご相談ください。

🩺

執筆:加藤 丈陽(かとう たけあき)/かとう内科 院長

総合内科専門医(日本内科学会認定・認定番号 029447)

愛媛県今治市の「かとう内科」院長。総合内科専門医として、高血圧・糖尿病・脂質異常症・睡眠時無呼吸・肥満症などの生活習慣病を中心に、地域のかかりつけ医として日々の診療にあたっています。日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』など最新のエビデンスにもとづき、患者さん一人ひとりの病態に合わせた診療を心がけています。

※この記事は一般的な情報提供を目的とした解説です。図表はガイドラインの数値をもとに作図しており、一部のバー長は値の大小を示すイメージです。食事・運動・薬の内容は個人の病態(腎機能・合併症など)によって異なり、自己判断で薬や食事内容を変更せず、必ず医師・管理栄養士にご相談ください。記載の内容は日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』第7章にもとづいています。なお「④ 運動」の章末に追記した2026年の小規模研究の項は、Journal of Human Hypertension誌の原著論文にもとづいています。

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