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高血圧は“社会全体”で下げる ― 健康日本21・食環境整備・循環器病対策基本法

2つの図で読み解く「国ぐるみの血圧対策」 ― なぜ平均5mmHgが鍵なのか

高血圧 社会全体での対策 かとう内科(愛媛県今治市)

高血圧対策は、じつは「あなた一人の努力」だけの話ではありません。国が、まちが、企業が、学校が、社会全体で国民の血圧を下げにいく――そういう大きな戦略が動いています。目標は、国民の血圧の平均を5mmHg下げること。この記事では、その考え方の核心となる2つの図をやさしく読み解きながら、ニュースでは説明されない「健康日本21」「食環境整備」「循環器病対策基本法」が、いったい何で、どうつながっているのかを、総合内科専門医の視点で徹底的に整理します。

この記事でわかること
  • なぜ「高血圧の人だけ」でなく「社会全体」で下げるのか(ポピュレーション戦略・図4-1)
  • 「健康日本21」とは何か ― 国の血圧5mmHg低下の目標と、その達成の道すじ(ロジックモデル・図4-2)
  • 食環境整備・身体活動の環境整備 ― “がんばらなくても健康になれる”社会のしくみ
  • 「循環器病対策基本法」とは何か ― 高血圧が国家戦略に位置づけられている理由
📌 この章の4つの要点(JSH2025 POINT 4)
1健康日本21で目標とされるように、国民全体の生活習慣改善などで、国民全体の血圧平均値を下げることが重要。
2減塩のための食環境整備(加工食品の減塩化・包装前面表示・職場の給食/弁当の減塩・マスメディアキャンペーン)を進めることが重要。
3身体活動を増やすための環境整備(運動に関する物理的・社会的環境を地域で整える)が重要。
4循環器病対策基本法に基づく基本計画で、高血圧症などの発症・重症化予防、知識の普及啓発、包括的リスク管理が重要な対策とされている。

以下、この4つの要点を一つずつ、図とともに掘り下げます。

出典:日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』第4章 POINT 4

🌍 なぜ「社会全体」で下げるのか ― ポピュレーション戦略

POINT 4 ①

結論から言うと、脳卒中や心臓病の“過剰死亡・発病”の半分以上は、「ひどい高血圧」ではなく「ちょっとだけ高い」人たちから生まれているからです。だから、重症の人だけを治療しても、社会全体の病気は半分も減りません。

血圧が非常に高い人は、一人あたりのリスクは大きいものの、人数そのものは少ない。一方、「正常よりやや高い~軽い高血圧(I度高血圧以下)」の人は、一人あたりのリスクは中くらいでも、人数が圧倒的に多い。掛け算すると、社会全体の病気の“大もと”は、じつはこの「多数派の軽度高値」から出てくるのです。これを予防のパラドックスと呼びます。

そこで登場するのがポピュレーション戦略(集団全体への対策)です。下の図のように、国民全体の血圧の「山(分布)」をまるごと少し左(低いほう)へずらす。たとえ一人ひとりはわずか数mmHgでも、全員でずれれば、社会全体では膨大な数の脳卒中・心臓病を防げる――これが基本的な発想です。

◀ 平均値を 5mmHg 低いほうへ
← 低い収縮期血圧(上の血圧)高い →
今の国民の分布 目標の分布(5mmHg低いほうへ)
図4-1:国民の収縮期血圧の分布を低い方向へシフトさせるポピュレーション戦略/JSH2025をもとに作成

高血圧の人を見つけて治療する「高リスク戦略」は、もちろん必要です。当院の役割もここにあります。しかしそれだけでは、社会全体の脳卒中・心臓病は十分に減りません。両者は車の両輪。だから国は、後で述べる「健康日本21」などを通じて、社会全体の血圧の山を動かしにいくのです。

出典:JSH2025 第4章「1. 健康日本21」・図4-1

🇯🇵 「健康日本21」とは何か ― 国の健康づくり計画

「健康日本21」は、国(厚生労働省)が掲げる、国民の健康づくりの基本計画です。正式には「二十一世紀における国民健康づくり運動」。2024年度から始まった最新版が「健康日本21(第三次)」で、ここに高血圧の大きな目標が入っています。

国民の収縮期血圧 平均を 5mmHg 低下
健康日本21(第三次)の目標/2032年(令和14年)までに、2024年の調査と比較して

つまり国は、先ほどの図4-1の「山を5mmHg左にずらす」を、2032年までの具体的な数値目標として掲げているのです。健康日本21(第三次)は、次の4つを基本的な方向としています。

健康日本21(第三次)の4つの基本方向
  • ① 健康寿命の延伸と、健康格差の縮小
  • ② 個人の行動と健康状態の改善
  • ③ 社会環境の質の向上(健康な食環境・運動環境など、自然に健康になれる環境づくり)
  • ④ ライフコースアプローチ(子どもから高齢者まで、生涯を通じた健康づくり)

注目は③の「社会環境の質の向上」。これは「個人にがんばれと言うだけでなく、放っておいても健康になれる環境を社会の側に用意する」という発想で、まさにこの章の主題です。具体策が、次の図4-2に整理されています。

出典:JSH2025 第4章「1. 健康日本21」

🪜 5mmHgはどう達成する? ― ロジックモデル(図4-2)

道すじはシンプルで、「生活習慣を改善する → 危険因子が減る → 循環器病(脳卒中・心臓病)が減る」という3段の階段です。健康日本21(第三次)は、この流れを「ロジックモデル」として図にしています。

〈循環器病の予防〉 ゴール

脳血管疾患(脳卒中)

年齢調整死亡率・罹患率の減少

心疾患(心臓病)

年齢調整死亡率・罹患率の減少

⬆4つの危険因子の目標を達成すると
〈危険因子(基礎的病態)の低減〉

高血圧の改善

この章の主役。最大の危険因子

喫煙率の減少

 

糖尿病の増加抑制

有病者の増加を抑える

LDLコレステロール高値の減少

 

⬆毎日の生活習慣を変えることで
〈生活習慣の改善〉 土台

栄養・食生活

食塩↓(7g/日へ)・野菜↑(350g/日へ)・果物↑(200g/日へ)・肥満の改善

身体活動・運動

歩数の増加・運動習慣者の増加

飲酒

リスクを高める量を飲む人の減少

図4-2:健康日本21(第三次)における循環器病領域のロジックモデル/JSH2025をもとに作成(下の「生活習慣の改善」が、上の「危険因子の低減」、さらに「循環器病の予防」へとつながる)

国は、この土台部分――食塩摂取量を1日7gへ減らす・野菜を350g/日へ増やす・果物を200g/日へ・肥満を減らすといった栄養面の対策に、身体活動・運動、多量飲酒の対策を加えることで、全体として収縮期血圧が5mmHg下がると試算しています。さらに喫煙率の減少、糖尿病有病者の増加抑制、LDLコレステロール高値の人の減少を合わせて、脳卒中・心臓病の死亡率を下げることを目指しています。高血圧の改善は、4つの危険因子のなかでも中心に位置づけられています。

出典:JSH2025 第4章「1. 健康日本21」・図4-2

🍱 食環境整備 ― 「がんばらなくても減塩できる」社会へ

POINT 4 ②

これは、個人の我慢に頼らず、食品や給食そのものを薄味にしていく取組みです。意志の力だけに頼る減塩には限界があるので、「気づかないうちに塩が減っている」環境をつくろう、という考え方です。

食環境整備は、「食べ物へのアクセス」と「情報へのアクセス」の両面から進めます。WHO(世界保健機関)は、(1) 食品・食事中の食塩量を下げる施策、(2) 食品の包装前面表示(パッケージの表に分かりやすく栄養情報を出す)、(3) 学校給食など公共の食事の減塩化、(4) 行動変容のためのコミュニケーション戦略とマスメディアキャンペーン、を推奨しています。実際に英国では、これらの対策で国民の食塩摂取量が下がり、脳心血管病による死亡が減少しました。

日本で進む「食環境整備」の具体例
取組み内容
学校給食の減塩2021年の基準改正で、食塩相当量を 6~7歳1.5g/8~11歳2.0g/12~14歳2.5g(1食)に低減。全国90%以上の児童・生徒に提供
JSH減塩食品リスト日本高血圧学会が2013年から減塩食品を審査・公開。掲載品の累積減塩量は2013~2023年で9,678トン、2023年度売上は547億円に
職場の食事の減塩勤労世代向けに、社員食堂や注文弁当の減塩化を推進
食環境戦略イニシアチブ厚労省が2022年に産官学連携で立ち上げ、減塩を最優先課題に。健康日本21(第三次)で47都道府県へ拡大

日本人の食塩摂取の約6割は「調味料」(しょうゆ・みそ・塩など)から来ています。だから今後の最優先は、調味料を中心に、魚介加工品・パン・麺類などの加工食品の減塩化を社会全体で進めること。これは、あなた個人の減塩(第3章「減塩 ― エビデンスで徹底解説」)を、社会の側から後押しする動きです。

出典:JSH2025 第4章「2. 食環境整備」

🚶 体を動かしやすい「まち」をつくる ― 身体活動の環境整備

POINT 4 ③

運動が続くかどうかは、意志の強さだけでなく「環境」で大きく決まります。歩きやすい歩道、近くの公園や体育館、安全で治安のよい道――こうした環境が整っているほど、人は自然と体を動かします。

身体活動は、住んでいるまちの構造、公共交通の便利さ、緑地・公園・体育館へのアクセス、交通安全、治安、景観などと関連することがわかっています。そこで健康日本21(第三次)では、「“居心地が良く歩きたくなる”まちなかづくりに取り組む市町村数の増加」が目標に掲げられました。厚労省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、支援環境を (1) 生活活動の物理的環境、(2) 生活活動の社会的環境、(3) 運動の物理的環境、(4) 運動の社会的環境、の4つに整理しています。

診療でも「環境」を見ます

運動指導は「1日◯歩あるきましょう」と数字を渡すだけでは続きません。当院では、お住まいの地域にどんな運動資源(歩ける場所・運動の機会・指導者など)があるかにも目を向け、その方が続けられる具体的な方法を一緒に考えます。

出典:JSH2025 第4章「3. 身体活動を推進するための環境整備」

⚖️ 「循環器病対策基本法」とは何か ― 国を挙げた法律と計画

POINT 4 ④

これは、脳卒中・心臓病などの「循環器病」に、国として総合的に取り組むための法律です(2019年12月施行)。正式名称は長いのですが、「脳卒中、心臓病その他の循環器病」をまとめて「循環器病」と呼ぶことから、循環器病対策基本法と略されます。

なぜ法律にまでなったのか。循環器病は死亡の主な原因であるだけでなく、介護が必要になる原因としても、医療費に占める割合としても大きいからです。そこでこの法律にもとづき、国は「循環器病対策推進基本計画」を策定(2020年閣議決定、2023年に第二期)。さらに各都道府県が地域に合った推進計画をつくる、という形で全国に広がっています。

循環器病対策推進基本計画のポイント
  • 目標:2040年までに「健康寿命を3年以上延伸」+「循環器病の年齢調整死亡率の減少」(2016年比)
  • 三本柱:①予防・正しい知識の普及啓発 ②保健・医療・福祉サービスの提供体制の充実 ③循環器病の研究推進(土台として「診療情報の収集・提供体制の整備」)
  • 考え方:循環器病は再発しやすいため、最初の予防(一次予防)だけでなく、再発・合併症・重症化の予防もくり返し行う

この計画のなかで高血圧は、循環器病の「主要な危険因子となる生活習慣病」として、脂質異常症・糖尿病・高尿酸血症・慢性腎臓病などとともに明記されています。食塩のとりすぎ対策についても、「健康に関心の薄い層も含め、誰もが自然に減塩できる食品の開発・広報を進める」と書き込まれました。さらに、日本脳卒中学会・日本循環器学会などによる「脳卒中と循環器病克服 第二次5ヵ年計画」もこの取組みに役立てられ、日本高血圧学会も同じ目標を共有して、地域の医療連携を通じて対策を進めています。つまり高血圧対策は、いまや「国家戦略」の一部なのです。

出典:JSH2025 第4章「4. 循環器病対策基本法と関連する医療政策」

🤝 では、わたしたちにできることは?

ここまでの「社会全体のしくみ」は、すべてあなたが健康になりやすくするための“土台”や“追い風”です。とはいえ、最後にスイッチを入れるのは一人ひとりの一歩。むずかしいことは要りません。

社会の追い風を、自分の味方にする

✅ 家庭血圧を測る ― 自分の“山の位置”を知る第一歩(第2章:正しい測り方)

✅ 減塩食品・減塩給食を選ぶ ― 社会が用意した薄味の選択肢を活用(第3章:減塩)

✅ 歩きやすい環境を使う ― 近所の公園・歩道・公共交通で、こまめに体を動かす

✅ 気になったら、かかりつけ医へ ― 早めの相談が、重症化予防の近道

当院は、地域のかかりつけ医として、この国全体の取組みと同じ目標を共有しています。あなたの血圧を「個人の高リスク戦略」で確実に下げつつ、地域全体の健康にもつなげていく――その入口として、どうぞお気軽にご相談ください。

❓ よくある質問

Q. 「平均を5mmHg下げる」って、そんなに大事なこと?

はい。一人では小さく見えても、国民全体の血圧の山がまるごと5mmHg下がれば、脳卒中や心臓病はかなり大きく減ると見込まれます。これは個人の治療(高リスク戦略)だけでは届かない領域で、社会全体(ポピュレーション戦略)だからこそ生まれる効果です。

Q. 健康日本21とか循環器病対策基本法は、患者の自分に関係あるの?

大いに関係します。減塩食品が増える、学校給食や社員食堂が薄味になる、歩きやすいまちが整う――これらはすべて、あなたが無理なく血圧を下げられる環境を社会の側が用意しているということ。その追い風を使わない手はありません。

Q. 結局、自分は何をすればいい?

むずかしく考えず、まず家庭血圧を測り(第2章)、減塩を意識し(第3章)、こまめに体を動かす。そして気になる値が続けば、記録を持って受診を。社会のしくみと個人の一歩は、両輪でこそ効きます。

🩺

執筆:加藤 丈陽(かとう たけあき)/かとう内科 院長

総合内科専門医(日本内科学会認定・認定番号 029447)

愛媛県今治市の「かとう内科」院長。総合内科専門医として、高血圧・糖尿病・脂質異常症・睡眠時無呼吸・肥満症などの生活習慣病を中心に、地域のかかりつけ医として日々の診療にあたっています。日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』など最新のエビデンスにもとづき、患者さん一人ひとりの病態に合わせた診療を心がけています。

※この記事は一般的な情報提供を目的とした解説です。健康施策・法律・計画の内容は今後変更される場合があります。個別の治療や生活指導は病態によって異なり、必ず医師にご相談ください。記載の内容は日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』第4章にもとづいています。

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