• トップ
  • ブログ
  • 減塩は本当に血圧を下げるのか|36研究のエビデンスで徹底解説【今治市 かとう内科】

減塩は本当に血圧を下げるのか ― エビデンスで徹底解説

36研究・約6.7万人が出した答え ― 数字で読み解く塩と血圧

高血圧 減塩 かとう内科(愛媛県今治市)

「減塩って、本当に意味あるの?」――よく聞かれる質問です。答えははっきり“ある”。これは精神論ではなく、世界中の36の研究・約6万7千人を集めて解析した、日本高血圧学会ガイドライン(JSH2025)の結論です。この記事では、ふわっとした「塩はほどほどに」では終わらせず、減塩で血圧がどれだけ下がるのか、どの方法が効くのか、脳卒中や心臓病まで防げるのかを、研究の数字(平均差・信頼区間・相対リスク)まで踏み込んで、総合内科専門医の視点で解説します。

この記事でわかること
  • 減塩で血圧はどれくらい下がるのか(36研究・約6.7万人が出した答え)
  • だれに・どの方法が効くのか(職域/成人/代替塩の層別解析)
  • 脳卒中・心臓病・死亡まで防げるのか(正直なエビデンスの話)
  • 今日からできる減塩の具体策と、「代替塩(減塩しお)」の重要な注意点
📌 JSH2025での新しいポイント
「集団での減塩」を、エビデンスにもとづいて“強く推奨”

JSH2025は、地域・職域・学校・家庭などの集団を対象とした減塩の取組みを「強く推奨」しました(推奨の強さ1/エビデンスの強さB/合意率100%)。一方で、減塩によって脳卒中や心筋梗塞などの発症そのものを防げるかについては、まだ研究の数が足りず、「推奨保留」(エビデンスの強さC)という慎重な評価にとどめています。「効く根拠は強いが、最終的な病気予防の証明はこれから」という、正直な現在地です。

出典:日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』第3章 CQ1

🧂 結論:減塩は、血圧を確実に下げる

まず結論です。集団を対象とした減塩の取組みは、その集団の血圧を有意に下げることが示されており、JSH2025はこれを強く推奨しています。これは推測ではなく、ランダム化比較試験を束ねた解析にもとづく評価です。

推奨の強さ 1(強い) エビデンスの強さ B(中) 合意率 100%

この評価のもとになったのが、次に紹介する大規模なメタ解析(複数の研究を統計的にまとめる手法)です。一つひとつの数字まで見ていきましょう。

📉 どれくらい下がる? ― 36研究・約6.7万人のメタ解析

集団への減塩で、収縮期血圧(上の血圧)は平均で約2.6mmHg下がりました。小さく見えるかもしれませんが、これは「国民全体」で起これば脳卒中や心臓病を大きく減らしうる、意味のある下がり幅です。

36論文
クラスターRCTなど
(34研究)
66,803例
解析対象人数
-2.64mmHg
収縮期血圧の差
[95%CI -3.48~-1.80]

JSH2025のシステマティックレビューでは、6人のレビュー委員が、PubMed 1,533論文・Cochrane Library 3,382論文・医中誌Web 37論文の計4,141論文を一次スクリーニングし、減塩介入群と対照群を「ベースラインからの血圧変化」で比較したクラスターランダム化比較試験(34研究・35論文)と準クラスター試験(1研究・1論文)の計36論文を抽出しました。その統合結果が、収縮期血圧で-2.64mmHg(95%信頼区間 -3.48~-1.80)です。信頼区間が0をまたいでいない=「偶然ではなく確かに下がっている」ことを意味します。

図:収縮期血圧変化の差(減塩介入群 対 対照群)/JSH2025 図CQ1-1をもとに作成
■=各研究の結果(点推定値)、横線=95%信頼区間。中央の縦線(0)より左=介入群で血圧が下がった。緑=統計的に有意/黄=有意でない(0をまたぐ)。
Arroll 1995
-2.90 [-12.31, 6.51]
Bernabe-Ortiz 2020
-1.23 [-1.29, -1.17]
Beune 2014
-3.69 [-8.34, 0.96]
Borah 2018
-5.30 [-8.40, -2.20]
Brown 2015
-0.30 [-3.81, 3.21]
Cappuccio 2006
-3.10 [-8.20, 2.00]
Cotter 2013
4.40 [-3.85, 12.65]
Gamage 2020
-5.70 [-8.76, -2.64]
He 2015
-2.30 [-4.53, -0.07]
He 2020
-2.53 [-3.90, -1.16]
He, children 2015
-0.80 [-3.05, 1.45]
He, children 2020
-1.19 [-2.76, 0.38]
Jafar 2010
-1.40 [-1.97, -0.83]
Kaur 2020
0.07 [-2.18, 2.32]
Kondal 2022
2.76 [0.21, 5.31]
Li 2016
-1.10 [-3.30, 1.10]
Liu 2022
-2.95 [-3.46, -2.44]
Mu 2009
-7.10 [-7.77, -6.43]
Mukhopadhyay 2023
-4.70 [-6.33, -3.07]
Neal 2021
-3.40 [-5.01, -1.79]
Niiranen 2014
3.00 [-1.49, 7.49]
Rubinstein 2016
-0.37 [-2.15, 1.41]
Takada 2016
-3.57 [-11.74, 4.60]
Takada 2018
-4.40 [-6.01, -2.79]
Thapa 2023
-2.80 [-4.70, -0.90]
Toft_a 2020
0.96 [-9.09, 11.01]
Toft_a, children 2020
1.00 [-5.86, 7.86]
Toft_b 2020
-2.64 [-12.64, 7.36]
Toft_b, children 2020
1.00 [-4.57, 6.57]
Wang 2020
-5.80 [-6.74, -4.86]
Wong 2021
-4.97 [-9.13, -0.81]
Yokokawa 2021
-1.83 [-4.01, 0.35]
Yu 2021
-4.58 [-5.58, -3.58]
Yuan 2023
-7.10 [-10.45, -3.75]
Zhang 2023
-1.98 [-3.55, -0.41]
Zhou 2016
-5.72 [-8.64, -2.80]
統合値(95%CI)
-2.64 [-3.48, -1.80]
-20-1001020
← 介入群で低下上昇 →

このグラフの“読みどころ”

個々の研究を見ると、効果には幅があります。大きく下がった研究では、中国のMu 2009(-7.10mmHg)、Yuan 2023(-7.10mmHg)、Wang 2020(-5.80mmHg、解析での重みづけ4.0%)、Zhou 2016(-5.72mmHg)、Gamage 2020(-5.70mmHg)などが目立ちます。一方、Kondal 2022(+2.76mmHg)やNiiranen 2014(+3.00mmHg)、Cotter 2013(+4.40mmHg)のように、むしろ上がった(または差がはっきりしない)研究もあります。

研究ごとのばらつきの大きさはI²=94%という非常に高い値で表され、「対象集団や方法によって効果がかなり違う」ことを示しています。それでも、すべてを統合した検定ではZ=6.15(P<0.00001)と、全体として血圧が下がる効果は明確でした。バラつきはあっても、“ならせば確かに下がる”ということです。

出典:JSH2025 第3章 CQ1・図CQ1-1(文献124)。I²=94%、Tau²=4.36、Chi²=567.75(df=35, P<0.00001)、統合効果の検定 Z=6.15(P<0.00001)。

🎯 だれに、どの方法が効く? ― 層別解析

結論を先に言うと、減塩の方法や期間を問わず効果はあり、とくに「職域(職場)」での取組みで効果が大きい可能性が示されました。また、効果は成人で大きく、小児でははっきりしませんでした。

① どんな集団を対象にしたか(成人対象研究の分類)
対象集団 論文数 効果
職域(職場) 2 効果が大きい傾向
地域 13 有意
家族・家庭 9 有意
医療機関 4 有意
学校 2 有意

職域で効果が大きい可能性が示されましたが、職場を対象とした研究はわずか2件しかなく、確かなことを言うにはまだ研究が足りません。とはいえ、社員食堂やまとまった集団に一度に働きかけられる職場は、減塩の“効きどころ”として期待できる場です。

② どんな方法で減塩したか(手法別)
介入手法 論文数 収縮期血圧
複合的な生活習慣改善 11 有意
減塩教育 7 有意
代替塩(減塩しお) 6 有意
減塩食の提供 3 有意
モニタリング 3 有意

注目すべきは、どの手法でも収縮期血圧は有意に下がったという点です。介入期間も「6ヵ月以下(12論文)」「12ヵ月以下(10論文)」「12ヵ月超(8論文)」のいずれでも有意でした。つまり、方法や期間にこだわりすぎず、自分が続けやすいやり方で取り組むことが大切だと読み取れます。一方で、小児(5論文)への介入では効果が有意ではありませんでした。子どもへの減塩は将来の習慣づくりとして重要ですが、短期間で血圧を下げる効果は今回はっきりしませんでした。

※分類は報告された論文数です。重複や小児を含むため、合計は全体の論文数と一致しません。

出典:JSH2025 第3章 CQ1 解説「1)血圧の低下」

🧪 塩を減らすと、体の中で何が変わる?

減塩で実際に食塩摂取量が減り(1日あたり約0.8g)、尿に出るナトリウムも減りました。さらに、カリウムを含む「代替塩(減塩しお)」を使った研究では、カリウムが増えてナトリウムとのバランス(Na/K比)が改善していました。

減塩介入による体内指標の変化
指標 研究数 効果(介入群 対 対照群)
食塩摂取量 22論文 有意に低下(-0.82 g/日 [-1.12~-0.53])
尿中ナトリウム排泄量 17論文 有意に低下
尿中カリウム排泄量 代替塩 4論文 有意に増加
尿 Na/K比 代替塩 2論文 有意に低下(改善)

食塩摂取量を評価した22論文では、介入群で1日あたり0.82g(95%CI -1.12~-0.53)の有意な減少がみられました(研究間のばらつきはI²=85%とやはり大きめ)。尿中ナトリウムの減少もこれを裏づけています。ポイントは代替塩です。ふつうの食塩(塩化ナトリウム)の一部をカリウム塩に置き換えた「減塩しお」を使うと、ナトリウムが減るだけでなくカリウムが増え、血圧に有利なNaとKのバランスへ近づきます。

⚠️ 「代替塩(減塩しお)」を使う前に ― 重要な注意

代替塩はカリウムを多く含みます。腎臓の働きが低下している方、カリウムを制限されている方、一部の降圧薬(ACE阻害薬・ARB・カリウム保持性利尿薬など)を服用中の方は、血液中のカリウムが上がりすぎる(高カリウム血症)と、不整脈などの危険につながることがあります。心当たりのある方は、使い始める前に必ず主治医にご相談ください。「体によさそうだから」と自己判断で切り替えないことが大切です。

出典:JSH2025 第3章 CQ1 解説「2)Na(食塩)・Kの摂取量、尿中排泄量の変化」

❤️ 脳卒中や心臓病は、防げる? ― 正直なところ

減塩によって、脳卒中や心臓病といった実際の病気(複合脳心血管イベント)が約2割減ったという結果が出ています。ただし、これを評価した研究はまだ少なく、エビデンスとしては“弱い~非常に弱い”段階にあります。

複合脳心血管イベント
RR 0.82
[95%CI 0.70~0.97]/3論文
脳卒中・全死因死亡
有意に低下
脳卒中2論文・死亡6論文

複合脳心血管イベントを評価した3論文では、介入群の相対リスク(RR)は0.82(95%CI 0.70~0.97)で、有意に低下していました。RR 0.82とは、おおまかに「リスクが約18%低かった」という意味です。脳卒中(2論文)や全死因死亡(6論文)でもRRは有意に低下しました。

とても心強い結果ですが、評価できた研究の数が少ないため、JSH2025はここを正直に「脳心血管病の発症予防についてはエビデンスの蓄積が必要(推奨保留・エビデンスの強さC)」と位置づけています。「減塩で血圧が下がる」ことは強く推奨できる一方、「減塩で病気そのものを確実に防げる」と断言するには、もう一歩データが必要――これが現在の到達点です。だからこそ、過度に不安をあおらず、しかし軽視もせず、地道に取り組む価値がある、というのが私の考えです。

出典:JSH2025 第3章 CQ1 解説「3)脳心血管イベントなどの低下」・推奨文

🍴 では、何をすればいい? ― 今日からの減塩

高血圧のある方の食塩摂取は、1日6g未満が目標です(日本高血圧学会)。日本人の平均摂取量はおおむね1日10g前後とされ、多くの人にとって「あと数g減らす」ことが現実的な第一歩になります。

日本食で塩が多い主な原因は、しょうゆ・みそなどの調味料、漬物、麺類の汁、加工食品(練り物・ハム・パンなど)、外食です。ここを少し工夫するだけで、無理なく減らせます。

続けやすい減塩のコツ

✅ 麺類の汁は残す ― ラーメン・うどんの汁を全部飲むと、それだけで数gの塩。

✅ 「かける」より「つける」 ― しょうゆ・ソースは小皿に出して、つけて食べる。

✅ だし・酸味・香りで補う ― 出汁のうま味、酢・レモンの酸味、こしょう・しょうが・ねぎで、薄味でも満足。

✅ 「食塩相当量」を見るクセ ― 加工食品は栄養成分表示の食塩相当量をチェック。

✅ 減塩調味料を活用 ― 減塩しょうゆ・減塩みそから。代替塩(減塩しお)は前述の注意を確認のうえで。

✅ 野菜・果物でカリウムを ― カリウムは塩(ナトリウム)の排出を助けます(※腎機能が低下している方は主治医に相談を)。

大切なのは、完璧を目指して挫折するより、続けられる小さな工夫を一つずつ。今回の解析でも「方法を問わず効果あり」でした。あなたに合うやり方で十分です。

家庭血圧をきちんと測りながら取り組むと、減塩の効果が“見える化”されてモチベーションになります。正しい測り方は第2章「家庭血圧の正しい測り方」をご覧ください。

❓ よくある質問

Q. たった2.6mmHgしか下がらないなら、意味がないのでは?

個人の感覚では小さく見えますが、これは「集団全体」を平均した値です。国民全体の血圧がこれだけ下がれば、脳卒中や心臓病はかなり減ると考えられます。また個人差が大きく、塩に敏感な体質(食塩感受性)の方では、もっと大きく下がることもあります。

Q. 「減塩しお(代替塩)」に替えれば、量は気にしなくていい?

いいえ。代替塩はナトリウムを減らす助けになりますが、カリウムを多く含むため、腎臓が悪い方や一部の降圧薬を飲んでいる方には不向きなことがあります。使う前に主治医に相談し、使う場合も「かけすぎない」基本は同じです。

Q. 減塩すれば、血圧の薬はやめられますか?

減塩で薬を減らせる方もいますが、自己判断での中止・減量は危険です。減塩は治療の土台ですが、必要な薬は続けながら、効果を見て医師と一緒に調整していきます。

✅ こんな方は、一度ご相談を

受診・相談のめやす

✅ 家庭血圧の平均が 135/85以上(または健診で140/90以上)

✅ 濃い味が好きで、麺の汁まで飲む・漬物や加工食品が多い

✅ 減塩を始めたいが、何から手をつければよいか分からない

✅ 「減塩しお(代替塩)」を使ってよいか知りたい(腎臓・内服薬が心配)

✅ 減塩しているのに血圧が下がらない(食塩感受性や他の原因の確認を)

当院では、家庭血圧の記録と生活背景をもとに、あなたに合った減塩の進め方と、必要な検査・治療を一緒に組み立てます。「何をどれだけ減らせばいいか分からない」段階で大丈夫です。お気軽にご相談ください。

🩺

執筆:加藤 丈陽(かとう たけあき)/かとう内科 院長

総合内科専門医(日本内科学会認定・認定番号 029447)

愛媛県今治市の「かとう内科」院長。総合内科専門医として、高血圧・糖尿病・脂質異常症・睡眠時無呼吸・肥満症などの生活習慣病を中心に、地域のかかりつけ医として日々の診療にあたっています。日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』など最新のエビデンスにもとづき、患者さん一人ひとりの病態に合わせた診療を心がけています。

※この記事は一般的な情報提供を目的としています。減塩の目標値や代替塩の可否、薬の調整は個人の病態(腎機能・服用薬など)によって異なり、必ず医師にご相談ください。自己判断での薬の開始・中止・変更は行わないでください。記載の数値・内容は日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』第3章CQ1にもとづいています。

PAGE TOP