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家庭血圧の正しい測り方 ― 朝晩・上腕式・記録のコツ

測り方ひとつで“別人の血圧”になる ― JSH2025にもとづく測定の作法と受診のめやす

高血圧 測り方・家庭血圧 かとう内科(愛媛県今治市)

「家庭血圧、なんとなく測っていませんか?」――じつは、測り方ひとつで血圧は10~20mmHg簡単に変わります。前かがみ、腕の高さ、測る時間――そのズレが、診断や薬の判断をまるごと狂わせます。この記事では、JSH2025(日本高血圧学会ガイドライン)にもとづいた家庭血圧の“正しい作法”と、受診のめやす、そして健診での血圧スクリーニングの意義まで、総合内科専門医の視点で具体的に解説します。

この記事でわかること
  • 正しい測り方の4つのポイント(なぜ前かがみ・腕の高さで値が変わるのか)
  • いつ・何回・どのくらい測ればいいか(朝晩/1機会2回/長期記録)
  • 測定環境と、やってはいけない5つの注意点
  • 受診のめやす(家庭135/85・診察室140/90)と、健診スクリーニングの意義
  • ジムや薬局の血圧計(kiosk血圧)は信じていいのか
📌 JSH2025での新しいポイント
血圧計は「上腕カフ・オシロメトリック式」を ― カフレス式は現時点で非推奨

JSH2025では、家庭血圧の測定に上腕(腕帯)カフ・オシロメトリック式の血圧計を用いることが示されています。近年広まりつつあるカフ(腕帯)を使わないタイプ(カフレス血圧計)は、測定値の信頼性に懸念があり、現時点では高血圧の診断・治療に用いることは推奨されていません。手首式も正確な測定が難しく、原則として上腕式をおすすめします。

出典:日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』第2章「2. 家庭血圧測定」

🏠 なぜ「家庭で測る」のか

家庭血圧は、診察室血圧よりも将来の脳卒中・心臓病をよく予測する、信頼性の高い“ものさし”です。だからこそ、JSH2025は家庭血圧を主体とした管理を強く推奨しています。

家庭血圧には、診察室で1回測るだけでは得られない強みがあります。同じ条件で・くり返し・長期間測れるため再現性が高く、緊張による「白衣現象」の影響を受けません。さらに、診察室では見つからない朝の高血圧や仮面高血圧(家でだけ高い)の発見にもつながります。多くの機種は脈拍数も同時に記録し、不整脈が疑われると警告を表示するものもあります。

家庭血圧がなぜそこまで重視されるのか、白衣高血圧・仮面高血圧や夜間の血圧のリスクについては、第5章「あなたの血圧は今どのレベル? ― 分類と“かくれ高血圧”」でエビデンス(大迫研究・CQ2・CQ3)に踏み込んで解説しています。本章では、その家庭血圧を正しく測るための実践に絞ります。

📐 正しい測り方 ― 4つのポイント

正しい測定の核心は、「腕帯を心臓の高さに」「前かがみにならない」「力を抜く」の3点です。これだけで、測るたびにバラつく“あてにならない数字”が、診療に使える“信頼できる数字”に変わります。

1

血圧計の位置

血圧計は、両胸の正面ではなく測定する腕側の肩の正面に置きます。上体が窮屈にならず、かつ離れすぎない位置に。上腕がやや外に開く(外旋)のは構いませんが、内側にひねったり伸ばしすぎたりすると血流が妨げられ、値が不安定になります。

2

腕帯の高さ=心臓の高さ(いちばん大事)

腕帯の中心を心臓と同じ高さ(乳首が目安)に合わせます。ここが高いと低めに、低いと高めに測定されます。机と椅子の高さで調整してください。

3

力を抜いて、手のひらは上向きに

腕を差し込み、前腕が支えられる位置までしっかり肘を出します(浅いと上腕動脈の振動を正しく捉えられません)。前かがみにならず、力を抜いて手のひらを上に向けます。

4

脚は組まず、両足を床に

背もたれつきの椅子に腰かけ、脚を組まずに両足を床につけて1~2分安静にしてから測ります。測定中は腕や身体を動かさず、会話もしません。

図:上腕式血圧計の正しい測り方の要点/JSH2025 図2-1をもとに作成

なぜ「腕の高さ」と「前かがみ」でこんなに変わるのか

腕帯が心臓より高い・低いと値がズレるのは、血液の重さ(静水圧)のためです。腕の位置が心臓より下がると、その分だけ余分な圧が加わって高く出ます。数cmの差でも数mmHg動くため、「乳首の高さ」という目印が役立ちます。また、前かがみになると腹圧がかかり、血圧が高めに測定されます。背もたれを使ってまっすぐ座るだけで、この誤差を避けられます。

服装と、測る前のひと工夫
  • 素肌、または薄手の服の上で測る。上着や厚手のシャツは脱ぐ(腕の締めつけが誤差になります)。
  • 静かで適温の部屋で。とくに冬の寒い部屋では血圧が上がりやすいので注意。
  • 測る前は喫煙・飲酒・カフェイン(コーヒー等)を避ける。いずれも血圧を変動させます。
  • 原則、利き手の反対側で測ります。左右差が大きいときは、どちらで測るか主治医にご相談を。

出典:JSH2025 図2-1「自動巻き付け式血圧計での測り方」・表2-1「家庭血圧測定の方法・条件」

⏰ いつ・何回・どのくらい測る

基本は朝と晩の1日2機会。1機会に原則2回測ってその平均を使い、できるだけ長期間、すべての値を記録します。

必須の測定機会(朝・晩)
機会 タイミングと条件
☀️ 朝 起床後1時間以内/排尿後/朝の服薬前・朝食前/座って1~2分安静後
🌙 晩 就寝前/座って1~2分安静後

朝の条件には、それぞれ意味があります

朝の測定条件が細かいのには理由があります。起床後1時間以内・排尿後に測るのは、膀胱が張っていると血圧が上がるため。服薬前・朝食前に測るのは、薬や食事の影響が入る前の“素の血圧”を見るためです。これにより、降圧薬が効ききる前のいちばん高くなりやすい時間帯――いわゆる早朝高血圧やモーニングサージ――を捉えられます(この臨床的意義は第5章で解説しています)。

回数・期間・記録のルール
項目 原則
測定回数 1機会に原則2回測り、その平均値を採用(1回だけのときはその値を使う)
測定期間 できる限り長期間つづける
記録 すべての測定値を記録する(都合のよい値だけ選ばない)

※特別な場合を除き、1機会に4回以上測ることは推奨されません。医師の指示で、夕食前・晩の服薬前・入浴前・飲酒前・夜間などを追加で測ることもあります。

出典:JSH2025 表2-1「家庭血圧測定の方法・条件」

⚠️ やってはいけない・注意したい5つのこと

正しく測るのと同じくらい大事なのが、“やらないこと”です。とくに次の5点に気をつけてください。

家庭血圧測定の落とし穴

❌ 1回の数字に一喜一憂する ― 血圧は1日でも大きく変動します。長期間の平均で判断し、専門家・主治医の診断を受けてください。

❌ 自分の判断で薬を中止・増減する ― 数値を見て勝手に内服薬を調整しないでください。必ず医師にご相談を。

❌ 都合のよい値だけ記録する ― 高い値も低い値も、すべて記録してこそ正しい評価ができます。

❌ 入浴後・飲酒後に測って安心する ― これらの直後は血圧が低めに出るため、本来の値ではありません。

❌ 測定そのものが不安なのに無理に続ける ― 測ること自体がストレスなら、無理は禁物。測り方を含めて相談してください。

「測ること」が目的になっていませんか

家庭血圧は、下げるための“道具”であって、数字に振り回されるためのものではありません。毎回の上下に一喜一憂するより、同じ作法で淡々と測り、記録を持って受診する――これがいちばん血圧を下げ、脳卒中や心臓病を防ぎます。

出典:JSH2025 表2-1 注釈(注1~注5)

🚩 受診のめやす ― この数字なら相談を

家庭血圧の5日間以上の平均が135/85mmHg以上、または健診などの診察室血圧が140/90mmHg以上なら、原則として医療機関への受診をおすすめします。

🏠 家庭血圧(5日以上の平均)
135/85 以上
mmHg
🏥 診察室血圧(健診など)
140/90 以上
mmHg

このほか、測定条件を守ってもなお値が不安定なときや、「不規則脈波」などの警告が血圧計に表示されたときも受診をおすすめします(不整脈などが隠れていることがあります)。受診の際は、家庭血圧の記録(手帳やアプリ)をぜひお持ちください。それが、診断と治療方針を決める最も確かな材料になります。

出典:JSH2025 第2章「3. 受診勧奨」

🩺 健診での血圧測定には、大きな意味がある

健診での血圧測定は、高血圧を早期に見つけ、治療につなげる“入口”であり、同時に血圧への意識を高める啓発・教育の機会でもあります。

高血圧は自覚症状が乏しいまま進む一方で、脳卒中・心臓病・腎臓病など脳心血管病の最大の危険因子です。そして見落とされがちですが、若い世代ほど、高血圧が長く続くことによる脳心血管病や慢性腎不全(腎臓の働きの低下)の“生涯リスク”は高くなります。「まだ若いから大丈夫」ではなく、若いうちからの早期発見と、そもそも高血圧にならないための予防が大切だということです。

高血圧は、国民のおよそ半数・4300万人が有するとされる、ありふれた、しかし放置できない状態です。「高血圧」に当てはまらなくても、血圧が正常域(診察室120/80・家庭115/75未満)より高い正常高値血圧・高値血圧の段階でも脳心血管病のリスクは上がり、該当する人の数が非常に多いため、集団全体では多くの病気と死亡につながります。だからこそ、まだ高血圧でない“予備群”まで含めた早期発見が重要になります。高血圧そのものの規模や背景は、第1章「高血圧の疫学」で詳しく扱っています。

降圧治療は、血圧のレベルや合併症の有無にかかわらず脳心血管病の予後を改善することがわかっており、健診で早く見つける利点は大きいといえます。一方で、健診を受けない人も少なくありません。だからこそ、誰もが自宅で続けられる家庭血圧測定の普及が、集団全体の血圧管理の鍵になります。家庭や職場で測った値を、専門知識をもつ医療従事者が正しく解釈し、適切な指導につなげる――その仕組みづくりが進められています。

わが国では、事業主が行う職場健診、市町村の健診に加え、2008年から特定健康診査(いわゆるメタボ健診)が導入され、いずれも血圧測定は必須項目です。人間ドックでも基本の項目です。標準的には、診察室血圧の測定条件に準じて原則2回測定します(実施状況により1回のこともあります)。

年代別・血圧測定のすすめ(米国の指針より)
  • 高血圧リスクが低く、これまで血圧が正常域だった18~39歳:3~5年ごとの測定
  • 40歳以上、または肥満など高血圧リスクの高い人:毎年の測定

わが国でも、事業主健診・市町村健診・特定健診・人間ドックなどで定期的な血圧測定の機会があります。

出典:JSH2025 第2章 POINT2・「1. 健診などにおける血圧スクリーニング」・Q1「健診での血圧スクリーニングにより集団の血圧管理率は改善されるか?」

🏪 ジムや薬局の血圧計は、信じていい?

結論から言えば、「気づくきっかけ」には役立ちますが、診断や薬の判断にそのまま使うことはできません。気になる値が出たら、上腕式の家庭血圧で確かめるのが基本です。

スポーツジムや自治体の施設、職場、薬局などに置かれ、医療従事者の手を借りず自分で測る自動血圧計を「kiosk(キオスク)血圧」とよびます。予約も要らず気軽に測れるため、高血圧に気づくふるい分け(スクリーニング)としては一定の有用性が認められています。

ただし注意点があります。設置された血圧計が定期的にメンテナンスされているか、自分の腕にカフ(腕帯)のサイズが合っているか、静かで適温の環境で正しい姿勢で測れているか――こうした条件の保証が乏しく、測定値の読み方(解釈)も定まっていません。そのため、kiosk血圧はスクリーニングに使うのはよいが、診断・治療の決定には用いないのが原則とされています。

薬局の血圧計について
  • 薬局で測る血圧も、診断・治療の根拠にそのまま用いるべきではない点はkiosk血圧と同じです。
  • 一方で、薬剤師が値に気づくことで、ほかの病気にともなう高血圧や、服用中の薬の副作用による血圧上昇が新たに見つかる、という意義もあります。

いずれの場合も、気になる数字が出たら、上腕式の家庭血圧計で正しい作法で測り直し、その記録を持って受診する――これがいちばん確実な進め方です。

出典:JSH2025 第2章 POINT2・「1. 健診などにおける血圧スクリーニング」

❓ よくある質問

Q. 手首で測る血圧計ではダメですか?

原則として上腕(腕帯)式をおすすめします。手首式は手首の位置や角度で値がぶれやすく、正確な測定が難しいためです。すでに手首式をお使いの場合は、測り方を含めて一度ご相談ください。

Q. 朝と晩で値が違います。どちらが本当?

どちらも“本当”で、両方が大切な情報です。血圧は1日の中で変動するのが自然で、朝と晩それぞれの平均を長期間で見て評価します。とくに朝の高い値は、早朝高血圧として重要な手がかりになります。

Q. 毎回バラついて、何を信じればいいかわかりません。

1回ごとの数字ではなく、同じ作法で測った値の“平均”と“傾向”を見ます。1機会2回測って平均し、できるだけ長く記録を続けてください。その記録を持って受診いただければ、私たちが一緒に読み解きます。

Q. ジムや薬局の血圧計で高く出ました。受診すべき?

まずは慌てず、上腕式の家庭血圧計で、正しい作法で測り直してください。ジムや薬局の血圧計(kiosk血圧)はカフのサイズや測定環境が整っていないことがあり、その値だけで判断はできません。測り直してもやはり高め(家庭135/85以上が続く)なら、記録を持って受診をおすすめします。

✅ こんなときは、ご相談ください

受診・相談のめやす

✅ 家庭血圧の平均が 135/85以上(または健診で140/90以上)だった

✅ 測り方は合っているのに、毎回値が大きく不安定

✅ 血圧計に「不規則脈波」などの警告が出る

✅ 朝だけ高い/家でだけ高い気がする(早朝・仮面高血圧の疑い)

✅ 家庭血圧の記録はあるが、見方・活かし方がわからない

当院では、おうちの上腕式血圧計の記録をもとに、いまの血圧のレベルと隠れた高血圧の有無を確認し、必要な検査と方針を一緒に決めていきます。記録(手帳・アプリ)をお持ちのうえでご相談ください。

🩺

執筆:加藤 丈陽(かとう たけあき)/かとう内科 院長

総合内科専門医(日本内科学会認定・認定番号 029447)

愛媛県今治市の「かとう内科」院長。総合内科専門医として、高血圧・糖尿病・脂質異常症・睡眠時無呼吸・肥満症などの生活習慣病を中心に、地域のかかりつけ医として日々の診療にあたっています。日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』など最新のエビデンスにもとづき、患者さん一人ひとりの病態に合わせた診療を心がけています。

※この記事は一般的な情報提供を目的としています。血圧の評価・検査の要否や治療方針は個人の病態によって異なり、必ず医師にご相談ください。自己判断での薬の開始・中止・変更は行わないでください。記載の数値・内容は日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』にもとづいています。

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