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高血圧の疫学 ― データで見る「日本人と高血圧」

4300万人・年間17万人の死亡 ― 血圧はどの病気を、どれだけ増やすのか

高血圧 疫学(データで見る) かとう内科(愛媛県今治市)

高血圧は、日本人にとって最も身近で、最も多くの命を奪っている“国民病”です。患者数は推計4300万人。しかも自覚症状はほとんどありません。この記事では、「血圧が高いと、具体的にどの病気が、どれくらい増えるのか」を、日本高血圧学会ガイドライン(JSH2025)の疫学データ――ハザード比、生涯リスク、集団寄与危険割合といった数字――とともに、総合内科専門医の視点で徹底的に読み解きます。脳卒中・腎臓病・心不全・認知症などが、血圧のどの指標と結びつくのかまで掘り下げます。

この記事でわかること
  • 血圧は「高いほど・連続的に」リスクが上がること(図1-1)と、その“起源”
  • 日本人を最も多く死なせている危険因子が「高血圧」である事実(図1-2)
  • 脳卒中・腎臓病・心不全・心房細動・認知症と、血圧のどの指標が・どれだけ関係するか
  • 4300万人・管理不良3100万人という日本の現実(図1-5)と、塩・肥満という2大特徴
📌 この章の要点(JSH2025 POINT 1)
1120/80mmHgを超えて血圧が高くなるほど、脳卒中・冠動脈疾患・慢性腎臓病・心不全・心房細動・認知症などの罹患・死亡リスクが高くなる。
2高血圧に起因する脳心血管病死亡は年間約17万人と推定され、死亡要因として最大。脳心血管病死亡の約40%が120/80超の血圧高値に起因する。
3血圧指標のうち収縮期血圧が脳心血管病リスクを最も強く予測し、他の危険因子の合併でリスクはさらに高くなる。
4高血圧者は約4300万人、うち3100万人が管理不良。認識していない者1400万人、認識しているが未治療450万人、治療中でも管理不良1250万人。
5食塩摂取量は依然多く、減塩は国民の血圧水準を下げるうえで重要。また肥満を伴う高血圧が増えている。

出典:日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』第1章 POINT 1

📈 血圧は「高いほど・連続的に」危険 ― 図1-1

POINT 1 ①③

血圧には「ここまでは安全」という安心ラインはありません。120/80mmHgを超えると、高くなるほど脳卒中・心臓病で亡くなるリスクが“連続的に”上がっていきます。しかもこの傾きは、若い世代ほど急です。

国内10コホート・約5万8千人をまとめた大規模研究「EPOCH-JAPAN」では、血圧レベルと脳心血管病死亡のハザード比(リスクの倍率)の間に、ほぼ右肩上がりの関係がありました。中壮年(40~64歳)では、III度高血圧(最重症)の死亡リスクは正常血圧の数倍(図では約7倍)に達します。高齢者でも上がりますが、傾きは中壮年ほど急ではありません。

「重症の人」より「ちょっと高い多数派」 ― 集団寄与危険割合

ここで重要なのが集団寄与危険割合(PAF)です。これは「もし全員が120/80mmHg未満だったら、防げたはずの死亡が何%か」を表します。下のグラフは中壮年のPAFです。最も大きいのは最重症のIII度ではなく、「高値血圧」や「I度高血圧」――つまり“ちょっと高い人”の層。理由は単純で、その層の人数が圧倒的に多いからです。

図1-1(一部):血圧レベル別の集団寄与危険割合(中壮年・脳心血管病死亡)
正常高値血圧2.4%
高値血圧11.7%
I度高血圧19.6%
II度高血圧15.0%
III度高血圧7.3%
中壮年では、これらを合計した「総集団寄与危険割合」は56%。高齢者では23%。/JSH2025 図1-1をもとに作成

中壮年では、脳心血管病死亡の56%が「120/80を超える血圧高値」に起因すると試算されます(高齢者では23%)。NIPPON DATA80の24年追跡でも、脳心血管病死亡の43%(中壮年男性では81%)が血圧高値に起因すると評価されました。さらに、18歳時点で正常高値血圧だった男性は、36年後の脳心血管病リスクが有意に高いという海外データもあり、若いうちから120/80未満に保つことの大切さがわかります。

出典:JSH2025 第1章「1. 各種疾患との関連」・図1-1(EPOCH-JAPAN)

💀 日本人を最も多く死なせている危険因子は「高血圧」 ― 図1-2

POINT 1 ②

結論はシンプルです。2019年、約17万人が高血圧に起因して亡くなったと推計され、これはあらゆる危険因子のなかで最大です(高齢化により2007年の約10万人から増加)。

図1-2:2019年の脳心血管病死亡数への各種危険因子の寄与(男女計・順位)
高血圧約17万人
LDLコレステロール高値2位
高血糖3位
喫煙4位
腎機能障害5位
高い食塩摂取6位
高いBMI(肥満)7位
低い全粒穀物摂取8位
低い身体活動9位
低い果物・野菜摂取10位
バーの長さは寄与の大きさの順位を示すイメージです(高血圧のみ実数を表示)。/JSH2025 図1-2(GBD・文献18)をもとに作成

注目すべきは、6位の「高い食塩摂取」や7位の「肥満」も、巡り巡って高血圧の原因になっている点です。高血圧は、それ自体が最大の危険因子であると同時に、塩・肥満という生活習慣の“通り道”でもあります。だからこそ、減塩(第3章)や肥満対策が、血圧対策の中心になるのです。

出典:JSH2025 第1章・図1-2

🎯 どの血圧の「指標」が効くのか ― 収縮期血圧が最強

POINT 1 ③

血圧には収縮期血圧(上)・拡張期血圧(下)・脈圧(上下の差)などの指標がありますが、将来の脳心血管病を最もよく予測するのは「収縮期血圧」です。とくに中年期以降は、収縮期血圧に注目するのが基本です。

さらに大切なのが「どこで測った血圧か」。研究の多くは診察室や健診の血圧を使っていますが、家庭血圧や24時間自由行動下血圧(ABPM)は、診察室血圧よりも脳心血管病リスクの予測力が優れていることがわかっています。加えて、診察室血圧の受診ごとのばらつき(受診間変動)や、家庭血圧の日ごとのばらつき(日間変動)が大きいことも、リスク上昇と関連します。「平均値」だけでなく「ばらつき」も重要、というわけです。

つまり、こういうことです

出典:JSH2025 第1章「2. 国民の血圧の現状と推移」前段

🫀 高血圧が引き起こす病気 ― 疾患ごとのエビデンス

POINT 1 ①

高血圧が関係するのは脳卒中だけではありません。腎臓病・心不全・心房細動・認知症・総死亡まで、幅広く・連続的に関わります。疾患ごとに、関係する血圧指標と、その根拠となる数字を整理します。

各疾患と血圧の関係(JSH2025の主なエビデンス)
疾患 関係する血圧指標 主なエビデンス(数値)
脳卒中・
冠動脈疾患
収縮期血圧(最強)/連続的に増加 高血圧者の生涯リスクは脳卒中17~33%・冠動脈疾患15~27%。とくに脳出血で関連が強い傾向
慢性腎臓病
(CKD・ESKD)
収縮期血圧/尿蛋白陽性で顕著 収縮期血圧10mmHg上昇ごとに末期腎不全リスクが10~35%上昇。収縮期140以上が続くと約3倍。120/80以上から有意差
心不全 収縮期・拡張期/130/80以上 120/80未満に比べ、未治療130~139/80~89でHR1.30、140/90以上でHR2.05(JMDC研究)
心房細動 収縮期・拡張期高血圧 未治療130~139/80~89でHR1.21、140/90以上でHR1.52。孤立性収縮期高血圧でも上昇
認知症 中年期の高血圧/家庭血圧の変動 中年期の収縮期160以上は110未満に比べ、26年後の認知機能低下が2.1倍(ホノルル・アジア研究)
総死亡・
余命
血圧レベル全般 NIPPON DATA80で平均余命2~3年短縮、DATA90でII・III度高血圧は健康寿命3~4年短縮
メタボリック
シンドローム
血圧高値(130/85以上)を診断に含む 脳心血管病の罹患・死亡リスクが1.5~2.4倍に

とくに知っておきたいポイント

腎臓:腎臓は細い血管のかたまりで、高血圧の影響をまともに受けます。とくに尿に蛋白が出ている人では、血圧上昇による腎機能低下が顕著です。血圧と腎臓は「悪循環」になりやすく、早期の管理が肝心です。

認知症:高齢になってからの血圧と認知症の関係は一定しませんが、「中年期の高血圧」は明確な危険因子です。つまり、40~50代の血圧管理が、将来の脳と記憶を守ります。

命の長さ:高血圧は、平均余命を2~3年、健康に過ごせる期間(健康寿命)を3~4年縮めると報告されています。しかもこれは降圧治療の効果を差し引く前の数字で、実際の影響はさらに大きいと考えられます。

出典:JSH2025 第1章「1. 各種疾患との関連」(2)腎臓病~(5)メタボリックシンドローム

📉 日本人の血圧、この60年でどう変わった? ― 図1-3・1-4

明るい話もあります。日本人の血圧の平均は、この約60年で各年代とも10~20mmHgも下がりました。とくに60歳以上で20mmHgを超える大きな低下がみられ、これが、かつて“国民病”だった脳卒中の死亡を激減させた最大の要因とされています。

-10~20mmHg
収縮期血圧の平均が
約60年で低下(図1-4)
約40~45%
高血圧の管理率
(まだ不十分・図1-3C)

この低下には、健診による高血圧の発見・啓発、降圧薬の進歩と普及、そして減塩など生活習慣の変化が寄与したと考えられます。一方で課題も残ります。高血圧の有病率は高齢化もあって高く(2016年で50歳代以上の男性・60歳代以上の女性は50%超)、治療率は上がったものの、きちんと140/90未満にコントロールできている管理率は男性で約40%、女性で約45%にとどまります。「治療はしているが下がりきっていない」人が、まだとても多いのです。

出典:JSH2025 第1章「2. 国民の血圧の現状と推移」・図1-3・図1-4

👥 4300万人の現実 ― 「管理不良」3100万人 ― 図1-5

POINT 1 ④

日本の高血圧者は推計4300万人。そのうち3100万人が管理不良(血圧140/90以上または未治療)です。内訳を見ると、深刻なのは「気づいてすらいない人」が多いことです。

33%
11%
29%
27%
未治療・認知なし:1400万人(33%) ― 自分が高血圧だと気づいていない
未治療・認知あり:450万人(11%) ― 気づいているが治療していない
治療中・コントロール不良:1250万人(29%) ― 治療中だが下がりきっていない
治療中・コントロール良:1200万人(27%) ― きちんと管理できている

つまり、きちんと管理できているのは4人に1人ほど。残りは「気づいていない・放置・下がりきっていない」のいずれかです。国際的にみても日本の血圧管理状況は不良で、日本高血圧学会は、管理不良の3100万人を2028年までの10年間で700万人減らすことを目標に掲げています。まず自分の血圧を知ること――ここがすべての出発点です。

出典:JSH2025 第1章・図1-5(2017年推計)

🍙 日本人の高血圧、2つの特徴 ― 塩と肥満

POINT 1 ⑤

日本人の高血圧には、昔ながらの特徴と、近年の新しい特徴があります。ひとつは食塩のとりすぎ、もうひとつは肥満を伴う高血圧の増加です。

① 食塩 ― 減ってはきたが、まだ多い

1950年代の東北地方では、食塩摂取量がなんと1日平均25gにも達していました。その後大きく減りましたが、令和5年(2023年)でも男性10.7g/日・女性9.1g/日と、まだ多いのが現状です。目標は食事摂取基準で男性7.5g・女性6.5g未満、健康日本21(第三次)では国民平均7g/日、WHOは5g/日未満を推奨しており、日本の現状はこれに遠く及びません。減塩の効果と具体策は第3章「減塩」で詳しく解説しています。

② 肥満 ― 男性で増加中

かつて日本の高血圧は「やせ型で塩の多い人」が典型でしたが、近年は肥満を伴う高血圧が、特に男性で増えています。男性の肥満(BMI25以上)の割合は令和5年で31.5%と、過去30年で約2倍に。女性は21.1%でほぼ横ばいです。米国はBMI30以上の高度肥満が42.8%に対し日本は4.6%ですが、生活の欧米化で今後増える懸念があり、肥満予防の強化が必要です。

出典:JSH2025 第1章「3. 日本人の高血圧の特徴」1)食塩の過剰摂取・2)肥満の増加

🧭 まとめ ― だからこそ「早く・続けて」

高血圧は、自覚症状がないまま、血圧が高いほど連続的に脳卒中・腎臓病・心不全・認知症のリスクを押し上げ、日本人を最も多く死なせている危険因子です。けれども裏を返せば、早く気づいて・続けて管理すれば、防げる病気と縮まずにすむ寿命がそれだけ多いということ。事実、国民の血圧低下は脳卒中死亡を激減させてきました。

この連載で、次の一歩へ

✅ まず自分の血圧を知る ―(第2章:家庭血圧の正しい測り方)

✅ 減塩の効果と具体策 ―(第3章:減塩)

✅ 社会全体の取組みを追い風に ―(第4章:社会全体での対策)

✅ あなたの血圧は今どのレベル? ―(第5章:分類とかくれ高血圧)

「健診で高めと言われた」「家で測ると高い気がする」――そんな段階こそ、いちばん効果的に手を打てるタイミングです。当院では、あなたの血圧のレベルと隠れたリスクを確認し、必要な検査と方針を一緒に決めていきます。記録を持って、お気軽にご相談ください。

❓ よくある質問

Q. 症状がないなら、少しくらい高くても大丈夫では?

残念ながら逆です。高血圧は症状がないまま血管を傷め続け、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞として現れます。リスクは120/80を超えると連続的に上がるため、「症状がない=安全」ではありません。だからこそ早期発見が大切です。

Q. 上の血圧(収縮期)と下の血圧(拡張期)、どちらが大事?

とくに中年期以降は、将来の脳心血管病を最もよく予測するのは収縮期血圧(上)です。もちろん両方大切ですが、上の血圧の管理がとくに重要になります。

Q. 若いうちは気にしなくていい?

いいえ。若い世代ほど血圧上昇によるリスクの傾きは急で、18歳時に血圧がやや高めだった人は数十年後のリスクが高いというデータもあります。若いうちから120/80未満を目指す意味は大きいです。

🩺

執筆:加藤 丈陽(かとう たけあき)/かとう内科 院長

総合内科専門医(日本内科学会認定・認定番号 029447)

愛媛県今治市の「かとう内科」院長。総合内科専門医として、高血圧・糖尿病・脂質異常症・睡眠時無呼吸・肥満症などの生活習慣病を中心に、地域のかかりつけ医として日々の診療にあたっています。日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』など最新のエビデンスにもとづき、患者さん一人ひとりの病態に合わせた診療を心がけています。

※この記事は一般的な情報提供を目的とした疫学データの解説です。図はガイドラインの数値をもとに作図したもので、一部のバー長は順位を示すイメージです。個別の診断・治療は病態によって異なり、必ず医師にご相談ください。記載の内容は日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』第1章にもとづいています。

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