糖尿病があると認知症リスクは高くなる?

1型糖尿病・2型糖尿病と認知症の関係

2026.09.03 更新

 
🧠 糖尿病と認知症

糖尿病と認知症|血糖の管理が将来の“脳”を守る理由

糖尿病は「血糖の病気」であると同時に、「血管を守る病気」でもあります。近年は糖尿病と認知症の関係がはっきりしてきました。認知症専門医・老年病専門医でもある院長が、糖尿病と脳のつながりを、今治市のかとう内科の視点で解説します。

この記事のテーマ

糖尿病があると、認知症になりやすいんですか?

📌 この記事の要点
  • 糖尿病のある方は、認知症になりやすいことが複数の研究で示されています
  • 若くして糖尿病になった人ほど、また肥満を伴う人ほどリスクが高い傾向です
  • 原因は、血管の障害・インスリン抵抗性・低血糖の繰り返しなどが重なるためです
  • カギは「血糖だけ」を見ず、血圧・脂質・体重・睡眠まで総合的に管理すること
  • 高齢の方では低血糖(下げすぎ)を避ける個別の目標づくりが大切です

1糖尿病があると認知症リスクは高くなる?

糖尿病は、血糖値だけの病気ではありません。高血糖の状態が長く続くと、血管や神経に負担がかかり、心筋梗塞・脳卒中・腎臓病・網膜症・神経障害など、さまざまな合併症につながります。そして近年、認知症との関係もはっきりしてきました。

日本の代表的な研究(久山町研究)では、糖尿病のある方は、ない方と比べて、アルツハイマー型認知症に約1.5倍、脳血管性認知症に約2.5倍なりやすいと報告されています。さらに、米国の大規模データベース「All of Us」を用いた研究(Neurology, 2026)でも、非糖尿病の人と比べて2型糖尿病で約2倍、1型糖尿病で約3倍、認知症リスクが高いことが示されました。

糖尿病予備群の段階でもリスクは上がる

注意したいのは、はっきりした糖尿病だけでなく、その手前の「予備群(耐糖能異常)」の段階でも、認知症になりやすいとされている点です。健診で血糖値が正常でも、HbA1cが高めだったり、食後の血糖が高かったりする方は、早めに状態を確認しておくことが大切です。

2若くして糖尿病になるほど、認知症リスクが高い

「糖尿病は高齢になってから気をつければいい病気」と思われがちですが、最近の研究はそうではないことを示しています。

50歳以上の2型糖尿病患者1,213人を中央値10年追跡した研究(PLOS ONE, 2024/Qiら)では、70歳以降に診断された人を基準にすると、50歳未満で診断された人は認知症リスクが約90%高く(ハザード比1.90)、50代で約72%、60代で約70%高いという結果でした。診断時の年齢が1歳若くなるごとに、リスクが少しずつ上がる傾向も示されています。

理由はシンプルで、若くして糖尿病になると、その後の人生で高血糖の影響を受ける期間が長くなるからです。動脈硬化・腎臓病・網膜症・神経障害・心筋梗塞・脳卒中などのリスクが積み上がり、脳の血管や神経への負担も長く続きます。

⚠️ 肥満が加わると、さらにリスクが上がる
同じ研究で、50歳未満で診断され、かつ肥満を伴う人が最も認知症リスクが高いことが示されました(肥満のない人の基準に対しハザード比3.05)。肥満はインスリン抵抗性を強め、高血圧・脂質異常症・脂肪肝・睡眠時無呼吸などとも重なって、血管全体への負担を大きくします。「まだ若いから」「症状がないから」と後回しにせず、症状がないうちから管理することが、将来の脳を守ることにつながります。

3なぜ糖尿病で認知症リスクが上がるのか

糖尿病と認知症の関係には、いくつかの要因が重なっています。どれか1つだけが原因というより、とくに高齢になると“合わせ技”で効いてきます。

🧩 主な3つの要因
  • 血管の障害・動脈硬化:高血糖で全身の血管が傷み、脳の血管にも影響。脳梗塞や小さな血管の障害が認知機能を下げます(血管性認知症)
  • インスリン抵抗性:インスリンは脳でアミロイドβ(アルツハイマー病の原因物質)の分解にも関わるとされ、効きが悪くなると蓄積しやすくなります
  • 低血糖の繰り返し:とくに重い低血糖は脳にダメージを与え、認知症リスクを高めます

これに高血圧や脂質異常症の合併が加わると、脳の血管への負担はさらに大きくなります。糖尿病は、まさに血管に負担をかける病気——だからこそ、血糖の管理は将来の脳を守ることにもつながります。

4見落とされやすい「糖尿病性認知症」

認知症というと、アルツハイマー型の「もの忘れ」を思い浮かべる方が多いと思います。しかし糖尿病に関係する認知機能の低下では、もの忘れよりも注意力や段取りの力(遂行機能)が先に落ちてくることがあります。

💡 こんなサインに気づいたら
「冷蔵庫を開けたのに、何を取りに来たか忘れる」「料理の段取りが悪くなった」「薬の飲み忘れが増えた」——こうした注意・遂行機能の変化は、糖尿病に伴う認知機能低下のサインのことがあります。もの忘れ外来・認知症の評価とあわせて見ていくことが大切です。

5大切なのは「血糖だけ」を見ないこと

糖尿病治療では、HbA1cや血糖値がもちろん大切です。けれども、認知症の予防まで考えるなら、血糖だけでは不十分です。次の項目をまとめて管理することが、脳と血管を守る近道になります。

✅ 脳を守るために、まとめて管理したいこと
  • 血糖(HbA1c)/ただし低血糖を起こさない範囲で
  • 血圧
  • LDLコレステロール・中性脂肪
  • 体重
  • 睡眠(睡眠時無呼吸の有無)
  • 禁煙
  • 運動習慣・人との交流

糖尿病・高血圧・脂質異常症は「メタボの三兄弟」とも呼ばれ、まとめて整えることで動脈硬化を抑えられます。これが結果として、心臓・腎臓・そして脳を守ることにつながります。

2026年:糖尿病診断後の早期スタチン開始と認知症リスク

🆕 デンマークの全国観察研究(Lancet Regional Health – Europe/ESC 2026発表)

「脂質の管理が脳を守ることにつながる」という点で注目されたのが、2026年8月27日にThe Lancet Regional Health – Europeへ掲載され、8月30日に欧州心臓病学会(ESC Congress 2026)で発表されたデンマークの研究です。全国医療レジストリを使い、2006~2019年に新たに2型糖尿病と診断された、診断時点でスタチンを使っていなかった132,585人を2021年末まで追跡しました(中央値7.1年。追跡中に2.7%が認知症を発症)。「診断後1年以内にスタチンを開始」「1年超~5年以内に開始」「最初の5年間は開始しない」という3つの戦略を、観察データで仮想的な比較試験を模倣する統計手法(clone-censor-weight法)で比べています。

結果、統計モデルによる推定10年の全原因認知症リスクは、開始なし群3.9%、早期開始群3.3%、後期開始群3.5%でした。開始なし群と比べ、1年以内の早期開始は認知症リスクが相対的に15%低いこと(絶対差0.59ポイント、95%信頼区間0.34~0.86)、1~5年後の開始は相対的に10%低いこと(絶対差0.38ポイント、95%信頼区間0.12~0.61)と関連していました。結果は女性と男性で概ね同様でした。相対的な15%という数字より、絶対の差(3.9%対3.3%、約0.6ポイント)は小さい点に注意してください。

デンマーク全国研究:スタチン開始時期と推定10年認知症リスク
スタチン開始時期 推定10年認知症リスク 開始なし群との比較
診断後5年間に開始なし 3.9% 基準
診断後1年以内に開始 3.3% 相対15%低いことと関連(絶対リスク差0.59ポイント低い)
診断後1年超~5年以内に開始 3.5% 相対10%低いことと関連(絶対リスク差0.38ポイント低い)

※上記は統計モデルによる推定10年リスクです。観察研究のため、スタチンによる因果的な予防効果を示した数字ではありません。

読み方の注意です。これは観察研究であり、ランダム化比較試験ではありません。統計手法で偏りを減らす工夫はされていますが、スタチンを早く始めた人と始めなかった人では、健康への意識、通院のしやすさ、他の病気などがもともと違う可能性が残り、スタチンが認知症を直接予防したと証明したものではありません。したがって、認知症予防だけを目的にスタチンを飲む根拠にはなりません。一方で、心血管リスクやLDLコレステロールの値からスタチンの適応がある2型糖尿病の方が、認知症への不安だけを理由に必要な治療開始を遅らせる根拠にはなりません。すでに服用中の方も、自己判断で中止せず主治医にご相談ください。開始の要否や薬・用量は、年齢、LDL-C、心血管リスク、腎機能・肝機能、併用薬、副作用歴を踏まえて個別に判断します。デンマークの研究であり、数字を日本人全員へそのまま当てはめることもできません。

この研究は、スタチンを“認知症予防薬”として使うことを証明したものではありません。ただし、2型糖尿病で脂質治療の適応がある方では、必要なスタチン治療をいたずらに遅らせないことが、心臓や脳の血管を守るうえで大切だと考える材料になります。スタチンの基本的な効果、副作用、高齢者での一次予防については 「コレステロールの薬、結局どれを飲む?――第一選択スタチン」 で解説しています。(出典:Ternhamar T, et al. Lancet Reg Health Eur. 2026;101814. DOI: 10.1016/j.lanepe.2026.101814)

6「悪循環」を断つ — 高齢の方はとくに低血糖に注意

認知機能が下がると、薬の飲み忘れや、食事・運動の管理がうまくいかなくなり、糖尿病が悪化しやすくなります。すると血糖が乱れ、さらに認知機能に影響する——この悪循環を、早めに断つことが大切です。

👴 高齢の方の血糖目標は「下げすぎない」
高齢の方では、血糖を下げることばかりを優先すると、かえって低血糖を起こし、転倒や認知機能の低下につながることがあります。年齢・体の状態・低血糖のリスクに合わせて、一人ひとりの目標値を個別に設定することが、老年医学の基本です。ご家族・介護される方とも相談しながら、無理のない管理を組み立てます。

7かとう内科の視点(糖尿病と“脳”を一体で診る)

当院の院長は、糖尿病をはじめとする生活習慣病に加えて、神経内科・認知症・老年病を専門としています。糖尿病の管理と、もの忘れ・認知機能の評価、そして高齢の方の低血糖を避けた個別目標づくりを、切り離さず一体で考えられるのが、当院の特徴です。

当院は、糖尿病・認知症のスクリーニングと日常の管理(保険診療)の入口を担います。専門的な画像検査や高度な認知症治療が必要な場合は、適切な医療機関と連携してご紹介します。「親が糖尿病で、もの忘れも心配」「血糖管理と一緒に頭のことも診てほしい」——そんな方は、ひとりで抱えずにご相談ください。

❓ よくある質問
糖尿病だと認知症になりやすいのですか?
なりやすい傾向が複数の研究で示されています。久山町研究ではアルツハイマー型に約1.5倍・脳血管性に約2.5倍、海外の大規模研究でも2型で約2倍・1型で約3倍という報告があります。ただし「必ずなる」ものではなく、血糖や血圧・脂質の管理でリスクを抑えられます。
若くして糖尿病になると、認知症リスクは高いのですか?
はい、その傾向が報告されています。ある研究では、70歳以降に診断された人と比べ、50歳未満で診断された人は認知症リスクが約90%高く、肥満を伴うとさらに高くなりました。若いうちからの管理が、将来の脳を守ることにつながります。
糖尿病で物忘れが増えることはありますか?
あります。とくに糖尿病に伴う認知機能の低下では、もの忘れより先に注意力や段取りの力が落ちることがあります。「薬の飲み忘れが増えた」「料理の段取りが悪くなった」などが続く場合は、一度ご相談ください。
糖尿病による認知症は予防できますか?
確実に防ぐ方法はありませんが、低血糖を避けながら血糖を良好に保ち、血圧・脂質・体重・睡眠・運動・禁煙を整えることで、リスクを下げられると考えられています。人との交流や運動も予防に役立つとされています。
🧩 糖尿病の交差クラスター(深掘りシリーズ)
「糖尿病 × 認知症・神経・老年」をまとめたテーマ記事です。基礎から知りたい方は、まず糖尿病トップページからどうぞ。
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血糖・血圧・脂質は「メタボの三兄弟」。3つセットで血管と脳を守ります。
この記事の監修
医療法人 かとう内科 院長 加藤 丈陽(たけあき)
日本内科学会 総合内科専門医(認定番号 029447)
日本神経学会 神経内科専門医(第5474号)・神経内科指導医(第3843号)
日本認知症学会 認知症専門医・指導医/日本老年医学会 老年病専門医
愛媛県今治市立花町1-10-5 TEL 0898-23-2310
参考文献・情報源
  1. Pederson AM, ほか(Weuve J ら). Type 1 Diabetes and Incident Dementia: An Analysis in the All of Us Cohort. Neurology. 2026.
  2. Qi X, ほか. Age at diagnosis of diabetes, obesity, and the risk of dementia among adult patients with type 2 diabetes. PLOS ONE. 2024;19(11):e0310964.
  3. 久山町研究(Ninomiya T, ほか. Neurology. 2011):糖尿病と認知症リスク
  4. 国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター「認知症」
  5. 日本糖尿病学会・日本老年医学会『高齢者糖尿病診療ガイドライン』(血糖コントロール目標・低血糖回避)
  6. Ternhamar T, Johansen MØ, Nordestgaard BG, Afzal S. Association between timing of statin treatment after diabetes diagnosis and risk of dementia: a nationwide observational study. Lancet Reg Health Eur. Published online August 27, 2026. Article 101814. doi:10.1016/j.lanepe.2026.101814.(ESC Congress 2026発表・観察研究)

※この記事は一般的な情報提供を目的としています。研究結果は関連(相関)を示すもので、糖尿病が直接認知症を起こすと断定するものではありません。診断・治療については必ず医師にご相談ください。

この記事を最後に更新した日:2026年9月3日

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